投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3
「綺麗だ…」
同性を好きな自分を認めるのが怖い。
それでも、鷲尾という男の存在を消す事ができない。
絹一は、そんな自分自身を持て余している。
「夜の桜もいいけど…」
灰色の空と淡いピンク色の桜の組み合わせ。
中途半端な色の組み合わせ。
今の絹一にはぴったりの色かもしれない。
「やっと咲いたか…」
「ぇ…」
声のするほうに振り返ると、絹一の真後ろに鷲尾が立っている。
気配など何も感じなかった。
それほど、桜に気をとられていた記憶はないのに…。
「曇り空の中の桜もいいもんだな。だが…」
鷲尾は素早く絹一の身体を自身のコートの中に包みこんだ。
「こんなに冷え切って…ったく、呆れて言葉も出ないな」
「…なら、放っておいてくれればいいんだ」
絹一は搾り出すような声を鷲尾にぶつけ、彼のコートの中から逃げ出そうとした。
「何故逃げようとするんだ?」
「何故って…こんなの間違ってる」
「間違い?」
「同性同士の恋愛なんて、こんなの…」
「…確かにな」
鷲尾はすんなりその言葉に同意した。
絹一は、その鷲尾の言葉に動揺を隠せずにいる。
自分から言い出した言葉なのに、鷲尾にその言葉を否定して欲しいと思ってる。
そんなの虫がよすぎる…わかってはいても落胆の色が隠せない。
「否定してほしいんだろう?」
鷲尾は、絹一の本心を見抜いたようかのような言葉を浴びせた。
いや。
実際は、鷲尾自身が絹一から否定の言葉が欲しかったのかもしれない。
今更、絹一を手放すことができるのか?
絹一を…。
自問自答しながら発した言葉に、余裕など全くなかったのだから。
鷲尾は沸きあがる感情を押さえられず、絹一の唇に自分の唇を重ねた。
肩にかけていただけのコートが落ちる。
灰色だった空は所々黒い色に変わっていた。
恋愛の相手が異性でなければいけないことはない。
ただ。
青い空の下よりも、灰色や黒に近い色の空の下が似合ってる…そんな気がしたのは、絹一だけではないのかもしれない。
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