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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.38 (2006/11/03 23:55) title:プレゼント3 〜天使を見た日〜 (2)
Name:モリヤマ (i220-221-13-162.s02.a018.ap.plala.or.jp)


 
 いま思えば、あれって赤ん坊の『むし笑い』だったんだよね。
 でも、ママが言ってたように、赤ちゃんにはいろんなものが見えてるのかなって思った。それで、二葉には俺が見えてたのかなって。
 夢の中のことなのに、真剣にそう思ってしまう自分に赤面だけど。
 ……凄くいい夢だった。
 二葉、可愛かったなぁ……。
 
――― あれ以上のプレゼントは、もうないだろうねぇ…。

(うん……)
 一樹さんの言葉を思い出して、俺もしみじみそう思った。
 それがご両親からの一樹さんへのプレゼントだったことも、すごく嬉しくて心に残ってるんだろうな……。
 昨日そう言った一樹さんは、とても優しく笑ってたんだけど、懐かしそうでいて、なぜか寂しそうに見えたんだ。
 
 
「なーに考え込んでんだよ」
「え? あ、あれ…?」
「もう出る時間だろ?」
「え、もうそんな時間っ!?」
 俺は飲みかけのままのオレンジジュースを一気すると、急いで小沼に『今出る』メールを打った。
 目が覚めてからも、ずっと夢で見たことが頭から離れなくて、二葉がせっかく用意してくれた朝食も上の空で食べてたみたいだ。
 俺がなにか考えごとしてると思って、邪魔しないで放っておいてくれたんだろうな。
(…ごめん、二葉)
 鞄をつかんで玄関に向かうと、後ろから二葉がついてくるのが気配で分かった。
「夜、俺ちょっと兄貴んとこ行くからさ」
「ロー・パー?」
「ああ。俺に渡したいものがあるから事務所に来てくれって、さっき一樹からメール入ってさ」
「二葉に渡したいもの…」
「ちょっと早いけど俺の誕生日プレゼントだってさ」
 リピートする俺に二葉は、なんでもないことみたいに言って笑った。
「当日はおまえとゆっくりしろってことらしいぜ」
「…ふぅーん。じゃあ俺、遠慮しとこうかな」
「なんで? いいじゃん、『ロー・パー』で待ち合わせして、軽く食べて帰ろうぜ」
「うん。……今日はちょっと買い物もしたいし。『ロー・パー』はまた今度で」
「そうか?」
「うん」
 なんとなく。
 今日は一樹さんに『弟』を返してあげたい気がしたんだ。
 ていうか、「返す」って言い方、二葉が俺のものだって言ってるみたいだ。
 もの、とか、そんなんじゃなくて。
(夢の中で一樹さんが、とても大切で誇らしげに「僕の弟」って言ってたみたいに…)
 俺にとっての二葉は、そんなふうに表すとするとしたらなんだろう。
 俺『の』、なにになるんだろう……。
「おいってば! マジ、もう出ないとヤバいだろ」
「あ…」
「考えごともいいけど、運転してるときだけはやめろ。…あ。あと、ベッドん中でもな」
 玄関のドアを開けたまま、俺を待ってる二葉がウインクしながらそう言った。
「はいはい」
「ん? 怒んねぇんだ?」
「朝から怒るようなことじゃないよ。運転はもちろん、ベッドに入ったら考え事なんてしないで早く寝ろってことだろ」
「…そう来たか」
「じゃ、行ってきます。二葉」
「気をつけて」
 玄関出るとこで、俺は二葉の頬に自分の頬を触れ合わすようにささやいて、マンションの廊下に出た。
 ドアが閉まる音がしないから、二葉は俺を見送ってるんだろう。
 いつものことだけど、今朝はそれがちょっと照れくさくて嬉しい。
「あ……!」
 俺は思わず振り返って二葉を見た。
「なに? 忘れもん?」
「……ううん。なんでもない。二葉、夜『ロー・パー』で食べてくるよね?」
「おまえがなにも食わねぇで帰ってくんなら、俺も腹空かしとくけど? 食いたいもんある? 用意しとくよ」
「いいよ。二葉、食べてきて。俺も仕事終わったら軽く食べとくから。でも、帰ったら少し飲みたいかな」
「了解」
「じゃあね」
「ああ」
 今度こそ振り返らずに俺はエレベーターにたどりつき、一階まで降りた。
 外に一歩出ると、快晴だけど少し肌寒さを感じた。
(こんな季節に二葉って生まれたんだなぁ……)
 さっき二葉に見送られながら、二葉って俺のなんだろうって考えて、浮かんだひとつの言葉があった。
 いまはそれが一番しっくりくる気がする。
 友達とか同士とか仲間とか恋人とか…。
 いろんな言葉もあったけど、今はこれだと思う。

 ねぇ、二葉。
 二葉は、俺の家族だよね……。

「なんにしようかなー…」
 つぶやきながら、澄みきった秋晴れの空と同じ、清々しい気持ちで歩きだした俺は、今日の帰りは二葉へのプレゼントを物色しに行こうと決めていた。


No.37 (2006/11/03 23:54) title:プレゼント3 〜天使を見た日〜
Name:モリヤマ (i220-221-13-162.s02.a018.ap.plala.or.jp)


 次の仕事までぽっかり時間が空いてしまった小沼と俺は、たまたま前の仕事が六本木だったこともあって、まだ早いかなとは思ったけど、開店前の『イエロー・パープル』に寄ってみることにした。
 案の定卓也さんはまだ来てなくて小沼は残念そうだったけど、俺達より十分ほど前に来たばかりだと言う一樹さんに「ちょうど頂き物があるから」と事務所に誘われた。
 そこで勧められたお茶とお菓子で、小沼のテンションは血糖値とともに一気に盛り上がったようだった。

「これ、このカスタード! いつ食べてもふわふわなんだよね〜〜」
 はじめは出された『萩の月』を幸せそうに堪能していた小沼だったんだけど、
「そろそろ十月も終わりか……」
 そう何気なく呟いた一樹さんの一言に、突然、過剰反応したんだ。
「そういえば今年の二葉の誕生日ってもうすぐじゃん!? 忍っっ」
「…なっ、なに?」
「今年はもう決まった!?」
「な、なにが…?」
 小沼の変なスイッチが入っちゃったんだろうな……。
 いつのまにか、俺の二葉へのバースディプレゼントが、酒の肴…じゃない、茶飲み話のネタになっていた。
 

「バースディプレゼントねぇ…」
「忍はさ、二葉に内緒で、でも二葉がいっちばん喜ぶプレゼントあげたいんだよね。エッチ抜きで」
「なっ……小沼っ…!」
 俺は危うく口に含みかけたお茶を吹き出しそうになった。
 一樹さんもいるのに、なんてことをっ…。
「…そ、それは…難しい相談だな」
 笑いをこらえた一樹さんの言葉に、小沼はなおも調子に乗って続ける。
「だよねーっ!? 二葉が一番喜ぶのわかってて出し惜しみしちゃってさ〜。忍ってば、イ・ケ・ズ〜♪♪」
「……だから。もっと普通のプレゼントでいいの、俺はっ」
(ていうか、俺、相談してないし……)
 小沼がこんなふうに言うのも、毎年あれこれと悩む俺を知ってるからで、別に俺をからかおうとか、そんなつもりじゃないことくらいちゃんと分かってる。
 分かってるからこそ、きつく言えないんだよな…。
 でも、確かにまだなにを贈ろうとか決まってないけど、悩んではいないんだ。特別なものじゃなくて……なんていうか、そのとき、思いついたものでいいっていうか。
 ちょっと寒くなったなって思ったら、早いけど手袋とか。
 最近凝ってるドラマがあるようだったら、その原作本とか。
 俺が二葉にって思ったことで、いいんだ。
 今までだって、そう分かってても思い切れずにじたばたしちゃってたんだけど。
「普通ってなにさー。相手が喜べば、それが一番いいんじゃん? 俺だってもし卓也がそんな(エッチ系?)プレゼントくれたらメチャ嬉しいし…。一樹だってそうだよね!?」
 そう言うと、そのまま一樹さんを上目遣いに見て、
「……てゆーか〜〜〜〜。11月は一樹も誕生日じゃん。一樹って、凄いいろんな人から死ぬほどプレゼントもらってそうだけど…。ズバリ! 今までで一番嬉しかった誕生日プレゼントって、なに!?」
 興味津々な目で小沼が尋ねた。
 突然の展開に目を見開いて驚きつつも、一樹さんはちょっと微笑んで答えてくれた。
「俺? うーん…。俺は、忍流に言えば、ちょっと普通じゃないプレゼントだけど…」
 普通じゃないって…。
 か、一樹さんならそれもありかと思ってしまうけど…。いったい…。
「今でもあれが一番のプレゼントだったなぁ…」
「えーっ!? なになになにっっ!? それってやっぱりエッ…」
 チ系!? って言葉は、小沼の口を塞いだ俺の両手によって阻止された。
「もう。小沼、そんなはずないだろ」
(いくら一樹さんでも……)
 そう思いながら、うめいてる小沼を解放したときだった。
 一樹さんが、さらっと言ったんだ。
「いや…なんていうか……男の子をもらったんだ」
「・・・・・!!!」
「犯罪ーーーーーーーー!!」
 絶句した俺と、絶叫の小沼。
 隣にいた俺の耳は打撃だったけど、それよりなにより一樹さんの言葉に俺の全てが大打撃だ。
「か、一樹さん、それって…、い、いただいちゃったんですか?」
 まさかと思いつつ、俺はおそるおそる訊いてみた。
 ていうか、訊いてもいいことなんだろうか…。
「もちろん、もらったよ」
 満面の笑みでそう答えた一樹さんは、あいつには内緒だよ、と念押しして一樹さんの一番のプレゼントについて話してくれた。
「一番嬉しくて、一番大切なものをもらったんだって、今でも思うよ…」
 きっとそれが心に残ってたんだと思う。
 その晩、俺は夢を見たんだ。
 
 
 
 気がついたら、俺はどこかの洋館の一室に居た。
 いや、居た、っていうのは正しくない。あるのは意識だけだから。
 室内を見渡すと、大きな窓際においてあるベビーベッドから泣き声が聞こえてきた。
 すぐに母親らしき人の声と足音が近づいてくる。
 そしてなにか語りかけながら赤ん坊に近づき抱き上げると、それまで泣いていた子はやがてぐずりながらも泣き止んだ。
 泣き止んでからも、母親はそのまま話かけている。やさしい表情と声で…。
「おかえり、ママ!」
 そこへ少年がひとり。走ってきたのだろうか、息を弾ませて入ってきた。
 小学校くらいかな…? と思ったところで、突然俺は気がついた。
(…一樹さんだ!)
 日差しにくるみ色の金髪が淡く反射して、すごく綺麗だけど可愛い…。
 てことは、この人は一樹さんのママで(よく見るとそうだ…)、赤ん坊は、二葉…? えっ、えっ…、み、見たい!! と思った瞬間、俺の視点は彼らにぐんと近づいた。
「ただいま、一樹。そして、おかえりなさい」
 二葉を抱いたまま、少ししゃがんで、ママは一樹さんにキスをした。
「ただいま、ママ。…パパは?」
「パパはお仕事に戻ったわ。病院から玄関まで送ってくれただけでタイムリミットだったみたい」
「僕もママと二葉のお迎え、行きたかったなぁ」
 一樹さん、やっぱり学校だったのかな?
 で、ママと二葉は、今日退院してきたとか?
 そんなことを考えているうちに、二葉(?)はベビーベッドに下ろされて、ママと背伸び気味の一樹さんが並んで中を覗きこんでいた。
「…かわいいねぇ」
「一樹も可愛かったわよ」
「僕の弟だね」
 母親を見上げてそういう一樹さん…天使だ…。
「二葉? なに、見てるの?」
 二葉は、俺のほうを見てる…みたいだった。
「ママ。二葉、なに見てるの?」
「赤ちゃんは、見えないものが見えるんですって」
「…ゴーストとか?」
 こわごわと尋ねる一樹さんがまた………(自粛中)。
「そう、フェアリーとか、ね?」
「フェアリー!」
 ぱぁーっと一樹さんの顔に笑みが広がる。
「二葉、すごいね!」
 つ、つれて帰りたいっ…。
 とバカなことを考えていたとき、
「わぁっ…」
 宙を見つめていた二葉が、一回二回と続けて笑ったんだ。
 一瞬のことだったけど、それがもう本当に可愛くて。
「ママ、ママ、見た? 二葉、笑ったよ? なんだろう、ほんとにフェアリーが見えるのかな?」
 興奮して嬉しそうにママに報告する一樹さん。
 そして、それに微笑みで答える容子ママ。
「…ねぇママ、二葉に触ってもいい?」
「手は洗った? うがいはした?」
「手は二回洗ったし、うがいも十回したよ」
「ふふ、じゃあいいわ」
「おかえり、ママ」
 そこへ、初めて出会った頃の二葉に似た感じの少年が、扉の内側に立ってノックをしながら声をかけた。これはきっと…
「幹だっ!」
 そう、幹さんだよね。
 うわぁ…。幹さんも可愛い……。
 って俺、なんだか危ない人みたいになってるかも…。
 でも幹さん。あの頃の二葉よりも年下のはずなのに、やっぱりなんかお兄さんぽい。
(二葉、やんちゃで…ちょっとこわかったからなぁ…)
 思い出して、つい笑いがこぼれる。
 顔は似てても、違うんだなぁ……。
「ただいま、幹。留守の間、不便だったでしょう? ごめんなさいね」
「ママこそ、無理しちゃ駄目だよ」
「幹、幹っ、二葉ね、いま笑ったんだよ、フェアリーが見えるんだって!」
「…カズキ〜。おまえ、ちゃんと兄ちゃんて呼べよなー。おまえが呼ばないと、二葉まで俺達のこと呼び捨てになるぞ〜」
 そう言いながら一樹さんに近づいて、いきなり幹さんは一樹さんの頭を少し乱暴に撫でた。
「ふっ二葉はちゃんと僕のことお兄ちゃんって呼ぶもん」
「呼ばない呼ばない」
「幹、あなた今日はもういいの?」
「あっ、ヤベっ、そうだった…。ごめんママ、これからボランティアなんだ」
「相変わらず忙しいのね」
 ママは両手を上に向け肩をすくめてそう言うと、でも、なんだか楽しそうに幹さんを見ながら、気をつけて行ってらっしゃい、と頬にキスした。
「サンキュ、ママ。あとでな一樹。それと、」
 よろしく二葉、と声がしたかと思うと、幹さんは素早く二葉にキスして部屋を出て行った。
「……あああああああああ1!!」
「と、どうしたの? 一樹」
「ぼぼぼ僕が『ようこそ』って二葉にこの家で一番初めのキスをするつもりだったのにーーっ!! 幹のバカバカバカーーーーー!!」
 一樹さんの泣き叫ぶ声に、二葉もビックリして火がついたように泣き出す。
 でもママは慌てず、まずベビーベッドの二葉を抱き上げてあやしながら、一樹さんの目線にまでしゃがみこんで言ったんだ。
「ほら見て、一樹。一樹が泣くから二葉も一緒になって泣いちゃったけど、………ね? 二葉は泣き止んだわよ。一樹を見てるわ」
 そう言うと、ママはそっと二葉を一樹さんのほうに近づけて囁いた。
「ハッピバースディ?」
「…うっ…ぇっ」
「一樹。二葉が、お兄ちゃんおめでとうって」
 まだちょっとしゃくりあげながら、一樹さんはママと二葉を見た。
「一週間、お留守番できてえらかったわね。ママ、一樹の誕生日になんにもできなくてごめんね」
「…ううん」
「でもね、ちゃんとプレゼントはあるのよ、パパとママから」
「プレゼント…もらったよ、昨日パパから」
「それとは別。もっともっと凄いんだから。一樹、ビックリしちゃうわよ」
「なに?」
 コホンとママは咳払いをひとつして言った。
「Happy birthday, Kazuki!! あなたに、パパとママから弟をプレゼントするわ」
「…………」
「嬉しくない? 一樹」
 ぽかんと口を開けて固まってしまった一樹さんに、笑いながらママが訊く。
「二葉、僕のなの?」
「そうよ。一樹の、弟よ」
「幹は?」
「幹には一樹って弟がもういるじゃない? 幹には一樹で我慢してもらいましょ? 二葉は一樹のよ」
 ママ、我慢って……。
 ふたりとも大真面目なのに、なんだかおかしかった。
「僕の!? 僕のだーっ!」
「ほら、挨拶して?」
「ようこそ二葉。僕の弟だよ。よろしくね」
 そうして一樹さんはママの腕の中の二葉に静かに顔を寄せてキスをしたんだ。
「…一樹ったら。キスは一回よ。何回もすると、二葉がビックリしちゃうでしょ」
「はーい」
 あはっ。二葉、真っ赤な顔して嫌がってる。…や、笑い事じゃないんだけどさ。
「今みたいにちゃんと手を洗って、うがいしてからよ?」
「手洗って、うがいしたら、いいの?」
「おはようと、おやすみのときにね」
「おはようと、おやすみだけ……?」
「じゃあ、行ってきますと、ただいまも」
「うんっ!!」

 幸せいっぱいな一樹さんの笑顔に、俺まで頬がゆるんでしまった。
『二葉、おまえってば、ほんと幸せな奴だよね』
 いつのまにかママに抱かれてすやすや寝息をたてている二葉に、そっと話しかけた。瞬間、二葉が突然ふわって笑ったんだ。
『えっ!?』

 ……残念ながら、俺が覚えてるのはそこまでだった。
 


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