投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3
俺の字は乱暴だって、いつも乳母や教育係に怒られてた。
でもお前は、褒めてくれたよな。勢いがあって素直ないい字だって。
私は君の字が好きだよって言ってくれた。
あれ、すごく嬉しかったんだ。
本当は、自分でも俺の字は読みにくい。おまけに文章だって下手だ。それでも、丁寧に書け、考えて書けって何度も何度もうるさく言われると、意地でもそうするもんかって思っちまって、わざと滅茶苦茶に書いて、また怒られて。
そんなことの繰り返しだったから、お前が言ってくれたことは本当に嬉しくて、お前に読まれるような時だけは、頑張って丁寧に書くようにしてたんだ。・・・ま、俺の字だから、頑張ったってたかが知れてるけどさ。
だからこれ、何度も書き直して、それを清書している。
お前宛てなら、書き直したものをそのままでもいいかと思ったんだけど、氷暉が汚すぎるって文句言うんだ。
あいつ、字を読めるようになったら、余計口うるさくなりやがって。
俺が書きながら唸っていたら、字が汚い、粗い、間違った字を消しきれていない、付け加えた言葉が他の字に被って読めない、文章の主語と述語が合ってない、あげくの果てに綴りが間違ってるとまで言いやがった。
誰だよ、魔族に天界人以上の記憶力を持たせた奴!
でもあいつに言われたので、一番こたえたのは他のことだった。
『お前はただ、所構わず自分の感情を垂れ流しているだけだ』って。
ぐさっときた。
・・・俺、うるさい黙れって怒鳴るしかできなかった。けど、本当は判ってるんだ。
『それを受け止める相手のことは考えていない』とも言われた。
・・・一応昔だって、考えてはいるつもりだったんだ。だから、副官を置かなかったり、一人で火山を潰したりしてたんだ。お前は俺のこと判ってくれてるから、こんな、自分勝手だって判ってることだって言っていいよな。
でも、さ。
ちゃんと、お前のことは考えてる。だから、柄にもなくこんなことしている。
伝わってほしいことは、そのときに伝えなきゃ駄目なんだって、――また次の機会があるとは限らないんだって、いろんな奴が俺に教えてくれたから。
お前に伝えたいことがあるんだ。
お前が守護主天だってこと、その意味。それがようやく、俺にも判ってきたように思う。
ティアランディアとしてのお前と、守護主天としてのお前。
俺にとってはどっちもただのお前だけど、その二つは決して一つにはならないんだな。
柢王はそこんとこ、よく判ってた。あいつは年上の親友としてお前の面倒見て、武将としてお前を守ってた。お前が少しでも大変でなくなるようにお前のことを大事にしてるって点は同じでも、その二つのどっちを優先させるか、今、目の前にいるのはどっちのお前なのか、それを間違えることはなかった。
お前自身でも間違っているときは、それをはっきり言ってたよな。
でも俺は、間違うどころか、判ってすらいなかった。だから、ティアとしてのお前に守護主天の特別扱いを頼んだり、守護主天のお前に幼馴染を求めたりした。
お前が背負っているものの重さと、それを背負う苦しさを、俺は全然、判っていなかったんだ。
今まではそれでも、教えてくれる奴がいたけど。
――もう、柢王はいない。だから、ちゃんと俺がそれを判らないといけないんだ。
もう聞いているよな。俺は、南領の王になる。
そうなったら、お前みたいに、ただのアシュレイと南領の王の、二つの俺になるんだと思う。
俺は今までのように好き勝手できなくなる。自分の気持ちだけで動くことはできなくなるんだ。
――父上も姉上も、俺のこと元帥とか南領一の使い手とか持ちあげといて、それでも結局は、俺のやりたいようにやらせてくれてたんだってことも、今更気付いた。
王の子としてするべきことは、姉上が全部引き受けてくれてたんだってことも。
情けないな、俺。元服だってとっくに済ませたのに、結局、周りに甘やかされて、自分勝手を許してもらって、それにすら気付かなかった。
ほんと、ガキだったんだ。
今までの分も、俺は大人にならないといけない。
今まで俺を守ってくれてた人達を、今度は俺が守れるように。
そのためには、天界最高の武将っていうだけじゃ足りないんだ。(あ、今ここ、孔明に怒られそうな気がした。山凍に勝てる気でいるのかって。まあそれは置いといて)
俺は王になるよ。
王としてお前を守る。守護主天のお前も、ティアランディアのお前も。
王になったら南領を守らないといけない。そのためには、俺自身の心とは違う道を進まないといけないこともあるのかもしれないけど。それでも俺は、お前に背を向けることは絶対にしない。誓うから。
〜〜〜いいか、一度だけだからな。どんなに頼まれてもこれっきりだからな!
俺は、永遠にお前のものだ。
どんなに離れた場所にいても、――父上に敵対することになっても。
俺はずっとお前の側にいる。
そのことを、ちゃんと伝えたかったんだ。ティア。
・・・ああ畜生、実はさっきから頭がガンガンしてるんだ。氷暉を眠らせるために酒一瓶飲んだからかな。あいつと共生して以来、すっかり酒に弱くなりやがった。火を司る南の王族が情けねえ。
こんなに飲んだら、あいつの機嫌最悪になるから、起きても頭痛治してくれないんだ。二日酔いがこんなにキツイもんだなんて、共生するまで知らなかったぞ!
ま、でも、『誓うから』辺りまで添削したら、その後は俺が酒を飲むのを邪魔しなかった。あいつ。
結構いいとこあるんだ。それにあいつも、お前が自分にも挨拶してくれること、かなり気に入ってるんだぞ。お前のこと、いい奴だなって言ってた。あ、これ、氷暉のいる前で言うなよ。
・・・読み返してみたら、なんかすごい恥ずかしいこと書いてないか? 俺。
やばい、これ燃やしたくなってきた。
そもそもこれ、どうやってお前に届けるんだよ。使い羽に預けるのはなんか嫌だし、俺が直接お前に渡すのはもっとやだ。
なんで俺っていつもこう、考えなしにやっちまっうんだ?
〜〜〜ああもう!
氷暉! 明日の朝になって俺がこれ燃やそうとしたら俺のこと止めてくれ! で、天主塔に出させてくれ! ここにメモ書いとくからな!
じゃティア、お休み! 仕事ばっかしてないで早く寝ろよ! 添い寝してくれないと眠れないなんて言ったら寝台燃やしてやるからな!
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