投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3
こんなことを思ったのは初めてで、どう言えばいいものか吾には判りません。
吾が、あなたが思っているよりもよほど満ち足りているということを。
それが多分、幸せと呼ばれるものなのだろうと。
幸せというものがなんなのか、吾は考えたこともなかった。
それをあなたならどう表すでしょうか。心を通わせた相手といること。望まれる喜び。力を尽くし、何かを成し遂げた後の達成感。それともほかの何かでしょうか。
あなたのことだから、美味な食事と心地よい寝台があれば、それで良いと言うのかもしれませんが。
あなたが吾を天界に繋ぎ留めたことを、あなたは忘れていない。ただそれは吾にとっては、それほど意味をなさないものです。
吾にとっては、天界だろうと、魔界だろうと人界だろうとたいして変わりがない。どこでも同じです。
だから、どこにいようと構わない。
李々が姿を消してから、人界にあったのは刹那の快楽ですらない――終わることのない暇つぶしの積み重ねだけだった。
吾はいつも退屈していた。
死んでないから生きているだけだった。
だからと言って、魔界を懐かしむほど酔狂でもありません。そもそも、それほど覚えていませんし。
――ね? だから、あなたが何かを背負う必要はない。
あなたはとても手がかかる。吾に甘えて、我侭を言って、こき使ったり置き去りにしたり、吾は落ち着く暇がありません。あなたの不足を補おうと思えばこそ書庫に入り浸って知識の海に浸ることもしたし、あなたのお務めのために策略を練ったり部外秘の資料を片っ端から読み込んだり、計画を立てたりするのは結構楽しいものです。知略を尽くしてぎりぎりの綱渡りをすることは、人界では望むべくもないことでした。
あなたといると退屈しない。それが魔族にとっては、一番の褒め言葉なのだと覚えてください。
あなたといると、生きているという気がするので。
吾はあなたといるから生きている。
心も体も、満たされていて――しあわせ、です。多分。
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