投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3
ティアと喧嘩して半年。天界では2日たった頃か。
アシュレイは姿隠術で姿を隠しつつ、夜の人間界を浮遊しながらティアのことを考えていた。
喧嘩の内容といえば、痴話喧嘩レベルのくっだらないもの。
自分たちが恋人と言える間になってから10年が経とうとしている。いい加減大人の関係になってもよさそうなものの、あの我儘守天ときたら、幼児化してるとしか思えない言動ばかり。元服前の方がよっぽど大人っぽくて頼りになったのものだ。そのくせ寝台での変態技だけは日々進化してるのはどういう訳だろう。
少し冷静になって考えさせるために、連絡はしばらくとらないつもりでいる。こっちだって仕事なのだ。守天直々の任務でもないのに一々報告する義務は無い。それなのにこの半年、気がつけばティアのことを考えている。まるで、10年ほど前にティアに突き離されていたときのようで、自分が情けない。
元々、隠し事をするティアが悪いのだと開き直ってみるが、やっぱり寂しい。
(俺は未だ天界一強い武将じゃないのかな...。あいつと対等になれる日なんかこないんだろうか)
アウスレーゼにも「守天の秘密はおいそれと話せるようなものではない」と言われている。無理に知りたい訳じゃない。ただ、今回みたいにどうせばれるような事なら最初から話しておいて欲しい。それを話せない程度の信頼関係なんだろうか。
ふと目を地上に降ろしたとき、ティアの後姿が見えた。更にその後ろをおかしな男たちが付けているのも。
「あいつ……!」
たった二日間が我慢できなかったのか、人間界なんかに来やがってと、アシュレイは焦って人影の無い路地に降り、姿を現してティアを追いかけた。
いた! 先ほどの男たちに拉致されかけている。
「ったく!」
アシュレイは風のように近づくと、人間の動きに見えるよう気をつけながら、あっさりと全員殴り倒した。
呆然としているティアの肩に手をかけ、強引に振り向かせる。
「この馬鹿ッ、又こんなとこまで追って来やがって。危ねえから止めろって何度言わせりゃあ気が済む……」
目を丸くして驚いている顔は美麗ではあったけれどティアではなかった。それどころか霊力すらない人間。
(いくら変化して霊力値を変えられるからって、人間と間違えるなんてどうかしている! くそ、俺としたことが)
「ワリィ!! 間違えた。すまねえ!」
理由もなく人間に関わることはできない。ただの人間違いとして今立ち去れば、この人間には何の影響もなく済むはずだ。
その時、横から勢いよく伸びた腕を、身体が勝手かわした。それも最小の動きで。パンチを放った少年が踏鞴を踏む。
「二葉、やめろ!」
いつの間にか、仲間と思われる少年たちが3人も増えていた。
「一樹、大丈夫?」
ティアと間違えた人物を守るように寄り添いこちらを睨んでいる。
角と耳は人間界に来たときに念のため隠していたが、髪と目はそのままだ。真っ赤に染めた髪に赤いコンタクトの怪しい外人じゃ、さっきの男たちの仲間に見えて当然。今の一発を素直に食らい捨て台詞でも残して去った方が、よっぽどマシだったかとアシュレイは臍をかむ。
「この方が助けてくださったんだよ。どなたかと人間違いをされたようだけど。お礼もまだ申し上げず失礼いたしました」
話が長くなりそうで、アシュレイは「あ、いや、勝手に間違えてホント悪かった。じゃあ!」と慌てて距離をとった。
一樹も無理矢理引きとめず「あなたの大事な人によろしく」とだけ声をかける。
(大事な人って! なんで……)
ふわりと笑った優しいけれど寂しげな顔が、昔のティアと重なった。
たぶん―大事なものを守りたいという信念とか、なんでも揃っているのに本当に欲しいものは手に入れられない寂しさとか、なにかティアの纏っている想いと重なるものがあるのだろう。
彼らと別れるとすぐに姿隠術を使い、後を追った。
「あの人すごかったねー。二葉のパンチ余裕で避けてたもんねー」
「累々と横たわる男たち見ただろ、絶対格闘家とかだよ。二葉が敵わなくてもしょうがないよ」
「くそ! 次は絶対当ててやる!」
「こら、俺を助けてくれたんだぞ」
「そうやって信用させて……って策かもしれないじゃないか」
「そんなことないよ。あの人は本気で心配してたから。俺じゃない誰かをね。さ、それより今夜の準備だけど……」
話はすっかりクリスマスパーティのことに代わっていった。じきに赤い髪の変な外人のことは忘れるだろう。これなら忘却の粉を使うまでも無いかと、アシュレイはほっとしてその場を去った。
無性にティアの顔が見たくなって、船も通らない海へ向かい、凪いだ水面に白水晶を浸す。
「アシュレイ?!」
絶対に白水晶の前でずーっと連絡を待っていたと思われる、焦ったティアの姿が映った。
慌ててホッとした笑みを無理矢理渋面に変えている。
「私なんかに、なんの用?」
丸2日間ほっておかれて、すっかりむくれている。
だが、こんな拗ねた顔を自分以外の誰かに見せてるところなんか知らない。
冷静沈着な守天様が、妬きもちをやいて泣いたり怒ったりするのも、実は甘ったれなのも変態なのも、自分だけが知っている。"ティア"と名前で呼ぶのも自分だけ。 ※2
例え対等ではなくとも、ティアにとって自分は特別な存在ではあるのだ。
思わず可愛い拗ね顔に微笑んでしまう。
「ティア、愛してる」
アシュレイが滅多に言わない言葉。しかも照れもなく、彼の目を見ながらはっきり言ったのは初めてのこと。
一瞬、何を言われたか解らない様に、ティアは目をぱちくりさせた。
「えええっっっ!!!」
その後言葉の意味を理解して驚きの声をあげたものの、数年に一度あるかないかのアシュレイからの愛の告白にかなりの動揺を見せている。
本当は涙が出るほど嬉しい、でも今はその一言だけじゃ足りないと文句も言いたい。そんな様子が手に取るように分かる。
あのティアで遊べるなんて――。自分も成長したものだと、アシュレイは更にティアを動揺させそうな極上の笑みを浮かべた。
(おわり)
※1 タイトルは「二人の愛を確かめたくって♪」と続きます
※2 この頃には閻魔は代替わりしてるはず...。カルミアの存在はもし生き延びてたとしても頭になし
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