投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3
開門すると人がなだれこみアシュレイは揉みくちゃにされた。
一団が通り過ぎ ゼイゼイと荒い息をついた。見れば塾の中は人だらけ‥。
「ヤバい 売れちゃう」アシュレイにはどうしても手に入れたい物があった。「あれは奥のフリマのテントで売ってる筈。」
アシュレイはあせって歩き出した。
門の回りの人ごみを抜けると、長い行列が見えた。並んでいるのは女性ばかり、列の前はとみると ティアの花屋だ。
白いテントの下 天守塔の庭に咲いた物だろう 色とりどりの花が大きな壺に活けられている。
背後には葉物やリボンが飾られている。その中でティアが花束を造っているのだ。「に‥似合っている。」つぶやくと頬に血がのぼる。
でも何か変だ。ティアの動きがおかしい、そうかとうなずいたアシュレイはテントの中に入っていった。
「俺が切るからかせ。」アシュレイはベルトにさげていた愛用のナイフを取り出し、ティアが持っていた花を取り上げた。
ティアの右手には、小さな先の丸まった鋏 これでは固い茎が切れなかったのだ。
「ありがとう アシュレイ 茎の長さをそろえて切って。」
「わかった、そっちの鋏でもリボンは切れるだろ つつむ用意しろ。」
「うん。」嬉しそうにティアがうなずく。
それからアシュレイは言われるがままに手を貸した。
赤 ピンク オレンジ 黄色 回りは色の洪水 むせそうな花の香り、アシュレイの頭がボーとなった所に声が降ってきた。
「アシュレイ 守天殿のお手伝いとは、感心です。最後までちゃんとやるんですよ。」
「えっ 姉上」
グラインダースは今しがたアシュレイが切ったばかりのカラーの花束を抱えている。背の高い細身の姿にすっきりとした白のカラーの花は映える。
「最後までって。」
買い物に行きたいとは、姉の前では言い出せない。客が途切れた所で抜け出す訳にもいかなくなった。
「守天殿 この子をよろしく。放っておくと何するかわかりませんから。」
「大丈夫です。グラインダース様。アシュレイは今日一日私と一緒ですから。」
そんな約束したっけ アシュレイは考えたが、した覚えはない。
けれど 姉上には逆らえない。
グラインダースは笑顔で「きれいな花をありがとう。」と言い置いて取り巻きと去った。
「さっさっと働け。早く終わりにしよう。」
こうなったら早じまいするに限ると、アシュレイはティアを促した。
程なくして、花の壺はからになった。
ティアは残った葉っぱに売り切れと書きテントの屋根からさげた。
「手伝ってくれてありがとう、アシュレイ。おかげで早く終わった。」
「じゃあな」と言って歩き出そうとしたアシュレイの腕をティアは捕まえた。
「お腹すかない。もうお昼だよ、柢王の屋台に行こうよ。」
「俺行きたい所あるから。」
と言いかけるとティアはアシュレイのお腹を指して「ぺったんこだよ。お昼ごはんにしよう」というとアシュレイを捕まえたまま歩き出した。
チョコバナナ たこ焼き リンゴ飴と屋台が並ぶのをティアは珍しそうに眺めながら柢王の店を探した。
「あった」ここも人だかりができている。
「さあてお立合い 東領は花街の特製焼きそば」豆絞りのねじり鉢巻きにハッピ姿の柢王が大きな鉄板の前に立っている。
「麺はシコシコの太麺」バサッと麺を鉄板にのせる。
「キャベツは御料農場産だ」キャベツを放り投げ、パチンと指をならすと葉は短冊状になり麺の上に落ちる。
「キャー柢王様 カッコいい」女性の黄色い声が上がる。
柢王は普通の倍はありそうな大きなヘラを取り出した。トントンと鉄板を叩くとヘラを空に投げる。ヘラはクルクル回って柢王の左手に収まる。
もう一本ヘラを取り出し 今度は背中から投げ上げ前で受け止めた。
再度あがった歓声の中に「あれが我が国の王子とは」と嘆く声がした。
声の出所を探そうと動きかけたアシュレイの腕をティアは離さなかった。
「柢王のかまいたちすごく正確だね。葉っぱの大きさが同じだよ。」
「うん芯をはじいたのも見えた。」アシュレイは柢王に目を戻した。些細な事を気にする奴ではない。
柢王はジャグラーのようにヘラを扱いながら、焼きそばを焼いていく。口上も止まらない。
「ソースは濃厚少々辛い 辛いのが苦手なご婦人にはマヨネーズをサービスだ。さあ食べてくれ。」
手早く盛り付けて客に配り、二皿を手元に残しティアに来いと指で合図した。
「花屋は終わったのか。」
「うん 柢王の言った様にバラをそろえたから、みんな喜んでくれた。全部違う花束になる様にもしたよ。」
「そうそう 女性にバラ贈っとけば間違いない。ただし 赤のバラは誤解されるから要注意だ」女たっらしは何教えたのだろうか。
「後は自由時間だな。こっちで座って食べろ。」柢王は荷物が載っている机の上を片付け、下から椅子を引き出した。
「ありがとう柢王 お腹すいてたんだ。」ティアは焼きそばを笑顔で受け取った。「焼きそば焼くのも初めてみた。柢王は上手だね。」
「簡単さ。」柢王は目を細めてティアの髪をなでる。「そうだアシュレイ、これやるから、二人で遊んでこい。」
アシュレイがみれば、ゲームコーナーのチケットだ。
「お前が買ったんか。」
「違う、焼きそば差し入れて貰った。俺は商売繁盛で行けないからやるよ。」
確かに店の前には客が集まり始めている。
「嬉しいな ゲームなんて初めて、遊べるとは思わなかった。」
ティアは満面の笑みだ、アシュレイにこの笑顔は壊せない。
「仕方ねえな、さっさっと食って行こう。」
こうなったらティアを誘ってフリマに行き 目を盗んで欲しいものを手に入れるしかないが、売れないでくれと祈るアシュレイだった。
文殊塾の門の内側 数歩離れた所でアシュレイは手中の玉を投げた。玉は空高く上がっていく。
アシュレイが指をならすと パーンと大きな音をたてて割れ白い煙が噴き出した。
つづけてもう一つ玉を投げ破裂させると今度は赤い煙が吹き出した。
「よっしゃ いいぞ」アシュレイのうしろで黒髪の先輩が声をあげ 空に向けて手を振る。
風をあやつる その手に従って白い煙は[バザー] 赤い煙は[開催]の文字を形作る。
そう今日は文殊塾のバザーの日だった。
事の始まりは、文殊先生が巡回の途中 飼育小屋で足が止まったことだった。
動物がヤケに多い。それに見慣れない動物もいる。なんとなく元気のない動物もいるような・・・はてなと首をかしげる。
見ると赤毛の飼育員が一生懸命に抱えた鳥をなでている。鳥はぐったりと丸まっているようだ。
その傍には金髪の少年が草の上にちんまりと座ってニコニコしている。
キレギレに「羽は治ったろ」「ここで少し休んでおいで」の声が聞こえる。
どうやら羽を痛めた鳥をティアが治療したようだ。増えた動物もなんらかの理由でアシュレイが保護したのだろう。
「やさしいというのは美点ですな。」しかしなぜその優しさが同族の天界人に向けられないのかと 首をかしげて文殊先生はその場を離れた。
そして翌日 文殊先生は飼育小屋増設とその資金集めのバザーの計画を発表した。
生徒はもろ手を挙げて賛成した。なんせ遊び好きの年頃 授業がつぶれてお祭り騒ぎができるのだ 賛成しない訳がない。
その場で受け持ちが決められた。
計算の得意な商人の子供がチケット制にしようといい、売り子に立候補した。
手芸の得意な生徒が手作り品のフリマをしょうと提案し 容姿に自信のある生徒が接客するといった。
年長組の男子生徒は食べ物やゲームの屋台を出し、年少組は余興の演奏会をする事になった。
みんなが盛り上がっているなかで、戸惑っている生徒がいる。この騒ぎの震源地 アシュレイだ。
文殊先生は考えた。
売り子→計算不得意
接客→愛想なし
ウェイター→所作乱暴
音楽→論外
文殊先生はため息まじりにアシュレイに開門の係を命じた。
という訳で今日 バザーが開かれる運びとなったのだ。
アシュレイは空に書かれた文字を確認すると、ポケットから原稿用紙を取り出した 文殊先生から渡された開会の挨拶だ。
これを門の外で待っているお客に向かって読み上げ 門を開けばアシュレイの仕事は終わる。
柢王がポンと肩をたたく。「さっさと開門しちゃえ 挨拶なんて誰も聞かないって。」言い残して柢王は去った。
見ると予想以上の人がおしよせ 開門を待っている。確かにこの人出では声は届かないだろう。まだ開けないのかという無言の圧力も感じる。
いいやとアシュレイは原稿をポケットに戻して門扉に手を掛けた。
「おはようございます。ただいま開門します。」思いっきり声を張り上げ 門を開けた。
文殊塾ののバザーの始まりだ。
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