投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3
「後朝の別れを覗く趣味はないけど、桂花の安全のためだから」
とティアは遠見鏡で桂花の居場所を探した。見えた、正門にいる。
桂花は門の内側にいる、柢王が門の外で少し浮き上がり(行け)という様に手を振っていた。
桂花は深く一礼をして 建物の中へ入っていく。
それを見届けた柢王は一気に高度を上げ、南の空へ消えていった。
(なんで南?東領とか蒼穹の門ではないの)考えているとドアがノックされた。
「桂花です。」
「入って。」遠見鏡を消すと 椅子に座りなおした。
「柢王は帰ったようだね。もっとゆっくりしていけばいいのに。」
「蒼穹の門で部下と待ち合わせしているとかで、出立つしました。」
それでは桂花は、柢王が向かった先を知らないのか。どこへ行くつもりなのか。ティアの考えなど知る術のない桂花は話を続ける。
「今朝は謁見の申し出が二件あります。その間に吾は昨夜途中にしてしまった仕事を終わらせます。午後には仕立て屋が参ります。」
「わかった。」ティアはすっきりした顔をした秘書を見上げる。
いつもの様に有能な秘書を演じているけれど、顔色もいいし 纏っている空気も艶めかしい。
(後朝の別れを充分に惜しんだらしい)クスリと笑みをうかべた。
順調に午前の予定を終えた頃には、柢王の行き先など頭になかった。
「色々な紫があるね。桂花どれがいい?」
仕立て屋が持ち込んだ色見本を広げながら ティアが聞いた。
「二藍ですか。」
「二藍というんだ。」
「はい よくご存じですね。人間界では 紅と藍の二色で染めることから二藍と呼ばれています。
紅の濃さや藍の加減で この様に赤紫から灰青色まで染めることが可能です。桂花様の肌に似合う色目が探せますかと。」
別に紫にこだわらなくてもいいが、鮮やかすぎない 落ち着いた色目は好きだと桂花も見本を肩にあててみる。
「昨日の生絹は桂花にぴったりだった。あまり飾りとかがないほうが 桂花の姿が際立つ様に思う。」
「そうでございますか、それならば生絹だけで長衣をお作りしましょう。肌の色が透けて見えてさぞおきれいでしょう。」
「そんな服あるんだ。フーン」ティアがつぶやく。
なにを想像しているのだ、こんなスケスケ服 吾に着せようとでも と桂花がねめつける。
「南領で今年 流行しています。下に胸覆いと腰布をつけて、透ける長衣をはおり 幅広のリボンを蝶結びにし止めます。」
厭だ 限りなく嫌だ、と桂花は目で訴える。
「南領は暑いからいいけど ここではどうかな。それよりこの布で浮織りできる。胸と背中 二の腕に 唐草模様を浮き上がらせられる」
桂花が肩にかけていた布地を取り上げる。
「はい 可能です」
「模様は地色より濃いめの紫で それと赤紫で花の模様も入れてみてくれる。」
「それでしたら 花の糸に加工をしまして花の香をつけてはいかがでしょう。東領のご婦人方に人気でして、挨拶なさる親密度によって香が違うというものです。」
なんなんだ、それは。袖に一輪 襟に多くなのか。桂花は頭を抱える。
「いい考えだ。桂花には甘すぎない さわやかな香りがいいな。百合とか鈴蘭とかでお願いしよう。」
それも嫌だ。柢王には見せられない。スケスケより意味ありげなのがいやらしい。絶対に柢王には見せられない。
その時 バルコニーに人影が立った。
「アシュレイ 来てくれたの。」ティアが声を上げた。
「なにやってんだよ。また変態ドレスの相談か。変態守天はよ。」
「違う、ほら園遊会とかあるし士官服以外の礼装の必要だなと思って。君の服も作ろうよ、どんなのにしようか。」
助かった。桂花は胸をなでおろした。ティアの関心がそれた。サルに感謝する日がこようとは思わなかった。
ティアがアシュレイにまとわりついている内にと サクサク片付けてしまった。
(kd113151204178.ppp-bb.dion.ne.jp)
東領に季変わりの風がふく。木の葉を揺らせ、草を倒すその風は冷たく人恋しさを募らせる。
人が家路に恋人の元へと足を向けたくなるような風の季節。
その東領の端にぽつんと建った小屋一つ。
小屋の前で小首をかしげる龍鳥一羽。
人の気配のない小屋の前で考えるのはここの住人の、パパとママの事。
パパはママと暮らすため、材木を運んで自分の手でこれを建てた。
ママはそんなパパとラブラブで暮らしていたのに、パパの出張で二人ともいなくなっちゃた。冰玉はそれが悲しい さびしい。
遊び友達は森にいるけれど、遊び疲れたボクを迎えにきてくれるママがいない。
ママは雨の中でも遊んでいる、ボクを迎えに来て、濡れた羽を丁寧に乾かしてくれる。
そのあとで飲まされる薬は苦いけど、熱があったら添い寝してくれる。
ママの髪はやわらかくて いい匂いがする もぐって寝るのは気持ちいいんだ。また風邪ひいてもいいなと思うくらいだよ。
パパがママにくっついて寝る訳がよくわかる。
ボクも恋人が欲しいな。そしたら気持ちよくあったかく、寝られるはず。
だってパパとママは 寝台で体操して汗かいているし 柔軟体操し過ぎたママは翌朝起きてこない。
うん恋人を作ろう。口説き方はパパの真似すればいい。
まず家を作ろう。二人で暮らす基本だ。
でもママと離れるのは嫌。
そうだイイ事考えた あそこに作ろう。
それから冰玉はセッセと木の枝をはこびます。ママの部屋との通路も確保しました。
が その通路は世間一般には煙突と呼ばれるものです。
冰玉が屋根で夢のお家を作っている時に桂花が帰ってきました。
小屋の中に変わりはないか、見回っていると 暖炉の中に木の枝が散らばっているのを 発見しました。
掃除はしたから、風で飛んできたものだろうか、詰まっていると困ると 箒の柄で煙突の中を突っついてみました。
そしたら 落ちる 落ちる。
木の枝が 屋根の材木が 鳥が
「冰玉!」
かろうじて間にあった桂花の手の中で冰玉は目を回していたとか。
「なんで 勝手に増築しようとするかな。だいだいあそこには俺の結界が張ってあるんだぞ。
おまえの恋人だろうが 茶飲み友達がろうが 入れる訳ないじゃんか。」
冰玉が気がついたら天守塔でした。パパもママもいる。あれ〜ママのドレスなんか変。胸に切れ込みが。
「冰玉を叱らないでください。もとはといえば吾たちが留守にして 淋しい思いをさせたのが悪いんですから。
冰玉 おいで今晩は一緒に寝よう。あなたは長椅子でお休みください。」
冰玉は喜んで桂花の腕に飛んだ。やっぱりこのドレス変と胸元を引っ張ってみる。
布が足りなかったのかな 作り途中なのかな。
ヒラメイタ こうするモノだ。
冰玉は桂花の胸にモグリこんで 切れ込みから顔だけ出した。
う〜ん ママに抱っこされるのは気持ちいい ドレスも肌触りいいし やっぱママが最高。
「なんか エグイような羨ましいような事して。
まったく恋人作ろうって男がママの添い寝かよ。桂花も髪に羽つくぞ。」
「羽がついたらあなたが梳いてくれるでしょう。
ドレスがダメになったらあなたが誂えてくれるでしょう。」
とあざやかに あでやかに微笑んだママは世界一きれいだったよ。
パパもそう思ったかな わかんないけど。
だってお休みって言われてパパの上着を掛けられちゃたから見てないんだ。
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