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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.294 (2011/09/04 22:25) title:鮮やかに迫りくる不安
Name: (p2247-ipbf2901marunouchi.tokyo.ocn.ne.jp)

 映画を観たあと、小腹がすいたアシュレイがコンビニでパンを買っているあいだ、ティアは雑誌を立ち読みしていた。
(二人で温泉・・・は、まだちょっとアレだよね・・・。プールとかなら喜びそうだな)
そう考えた瞬間、嫌な顔を思い出し眉を寄せる。
(まったくアシュイったら。私に言ってくれれば手取り足取り泳ぎくらい教えたのにさ。よりによってあんな男に・・・)
 腹が立って、顔を上げたティアの前を 「あんな男」 が通る。
 すぐにアシュレイのほうに視線をやり、彼がヤツに気づいたかどうかを伺ったティアは、舌打ちをした。
 アシュレイはレジに並びながらその姿を目で追っていた。気づいてしまったようだ。
 この後、支払いを済ませたアシュレイが彼に声をかけるのは目に見えている。
(せっかくのデートなのに!)  
 アシュレイに聞かれたら「デートだとぉ?」と怒られるだろうが、ティアにとってはデート以外のなにものでもないのだ。
 手にしていた雑誌を戻し、どうやって阻止しようかと考えていると、アシュレイがそのまま自分のほうへやって来た。
(あれ?)
「これ、ここの店にしか売ってない奴。お前も食う?」
 にっと笑った笑顔が、ぎこちない。
 明らかに気づいていたはず。なのに、どうして追いかけないのだろう?いや、それはとてもよい事なのだけど・・・・。
 外に出て、さっそくパンにかぶりつくアシュレイを横目で見ながらティアは言ってみる。
「さっき・・・あいつが通ったの、見てたよね」
「・・・・・あいつ?」
 もぐもぐと口を動かしながら、アシュレイは白を切っている。
「なんか、おかしいね」
「なにが」
「君、あいつとなにかあった?」
「・・・・・・」
 鋭い。なんで、いつもこうなんだ。
 小さい頃からそうだった。この幼馴染は自分のちょっとした態度の変化を見逃さない。
「あったんだね」
「別に・・」
 目を合わせずに答えるアシュレイを、ティアはじっと見つめている。まるで、そうすることで心の中を読み取ろうとしているかのように。
 アシュレイは、気まずくなって、食べかけていたパンをすべて口に放り込むと、先に帰るといって逃げるように駅へ向かった。
「・・・・・・なんだ、なにがあった?」

 とつぜん、あり得ないことをされ、呆然としている自分に向かって彼は言った。
『お前をあいつから奪う』
 その意味を理解できずに座り込んでいると、続けて彼は言った。
「なにか、勘違いしているようだが、俺は引っ越すといってもここからすぐ近くのアパートに越すだけだぞ?親と妹は田舎に行くが、俺は一人暮らしをはじめるだけだ」
「!?」
「ソファーと、このベッドを持って行くくらいで、荷物は少ないからな。大げさなものじゃない」
わなわな唇を震わせるアシュレイに、ニヤリと笑みを向ける氷暉。
「ま、まぎわらしい態度しやがってっ!」
「涙が出るほど俺と離れるのがイヤだったんだな。かわいい奴。お前の泣き顔見たら、たまらなくなった」
「お、おま・・」
「もう一度してやろうか」
「ふざけんなっ!」
 怒鳴りながら、部屋から出ようと立ち上がったアシュレイの腰を、氷暉が容易く引きよせる。
「ふざけるほどの余裕はないな。俺はあの男からお前を奪い取ると決めた」
「奪い取・・俺は誰のものでもない!」
「なら、好都合。これから俺のものにするだけだ」
「誰がなるか!離せバカ!!」
 ガブッと思い切り氷暉の肩に喰らいつき、彼が怯んだ隙にその体を突き飛ばすと、アシュレイは一目散で悪の住処から脱出した。
(ティアの言うとおりだった、ティアの言うとおり・・・)
 酷くショックを受けた。 信頼していた友人に裏切られた気分。走りながら、アシュレイは何度も唇をぬぐった。
(なんだって、二人して俺をそんな風に見やがるんだ。友達じゃダメなのか)

―――――ダメなんだろうな。
 ティアなんて、本気も本気。超本気なのだ。本気すぎてこっちが逃げ腰になるのも仕方がないくらい。 
 その点、氷暉は? 氷暉は余裕があるように思う。ティアに比べてぜんぜん。
 余裕があるということは、本気度も低いんじゃないだろうか。でも・・・・氷暉が冗談でああいうことをするとは思えない。
  駅のトイレで、鏡の中の自分が口の周りにパンくずをつけているのに気づき、アシュレイは顔を洗った。
 氷暉の姿を見ただけで、この有様だ、おちつけ自分。
「あ゛〜っ!ヤダヤダヤダッ!!もうヤダーッ」
 恋愛なんてややこしくて、苦手だ。なのに、相手が野郎だなんてよけいにややこしい。
 ティアも氷暉も好きだけど、だからといって恋愛対象になるというわけではない。

『私がアシュレイ以外の人に、こんなことしているところを見たらどう思う?君は何ともないの?』

 以前、問われた言葉を思い出し、アシュレイはそれを氷暉に当てはめてみる。

(驚くだけだな・・・)

 だが、ティアの場合は違う。あれだけ自分を好きだと言っておきながら、他のヤツといちゃつくなんて不潔だと思う。腹が立つ。
 もし、氷暉がこれからも自分を好きだと言いつづけ、それでいて他のヤツにべたべたしていたらやはり面白くない気がする。
(でも、そーいうのって・・なんか、自分だけを見てろっていう感じで変だな。俺が毅然とした態度で断ればいいのか。そしたら、俺だって、断った手前、あいつらが誰とべたつこうが怒る権利もなくなるしな)

 自分は、まだ本気で誰かを好いたことがないから、自分の気持ちを相手に告白する勇気は尊敬する。
 あの二人は告白よりも先に行動をおこすので、こちらとしても混乱するし困惑してしまうが・・・そう、あと、強引過ぎるところも困憊してしまうが。

 ティアは、最後の最後では自分の気持ちを優先して、止まってくれそうな気がするが、氷暉はもしかしたら違うかもしれない。このままあのペースで迫られたら、逃げ切れるかどうか・・・。

(氷暉が、こわい・・・・)

 純情だからこそ、恋愛に潔癖なアシュレイ。彼はティアがその後、氷暉の後を追ったことなど、知る由もなかった。


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