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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.287 (2011/04/13 12:58) title:秘書殿の憂鬱
Name:まりゅ (jalpx.mobile-p.jp)

「はあああああああ」
 今日も美貌の守護主天様の溜息が執務室いっぱいに広がっている。
「なんとか、アシュレイを天主塔に呼べないかなあ…。ねえ、桂花。良い方法ないかなあ」
 こちらも美貌の秘書殿が、やはり溜息混じりに答える。
「守天殿。現実逃避も程々に…。何度か申し上げましたが、吾は仕事が溜まるのが一番がまんできません」
「だって…」
 泣きそうな守護主天様に、秘書殿は再度溜息をつく。
「何かサル…いえ、南の方のプライドを擽る様な催しなどはないのですか?」
「催し?あ!武術催!!今年は部門優勝者同士で更に闘って、総合優勝者には、天主塔晩餐会にご招待とか?普段は公開しない場所にもご案内、私守護主天自らがフルケアします!なんてどうだろう?!あいつは賞品なんか興味ないだろうけど、最強を決めるって言ったら、絶対に飛びついてくる!」
「…サルが総合優勝するとでも?柢王がいるのに。北の王とて、サル如きに負けてはいないでしょう」
 恋人である柢王を馬鹿にするなと言わんばかりに、既に南領元帥アシュレイに対する敬語は微塵も無い。
「柢王は結果を重視する男だよ?必要と有らば細かいことには拘らないよ。ね、後は君の腕次第…」
「…柢王に八百長をやれと?」
「うん。後、眠くなる薬とか、力の抜ける薬とかあ…。アシュレイの相手だけに風を使うなんて、君なら簡単だよね?」
 毎日溜息ばかりで、なかなか仕事の進まない守護主天様に、そろそろ限界を感じていた桂花は不承不承手伝う気にはなっていた。
 守護主天様は、天界の最高権力者だが、それを笠に着るようなことはなく、常に穏やかで皆に慕われている。責任感が強く、判断も早くて的確。真面目だが融通が利かないわけではない。尊敬するに値する上司だ。
だが、ティアランディアは違う。問題なのは、ティアランディアが守護主天様より強いということ。ことサルに関してだけは。
 
とりあえず、桂花は一旦人間界から返って来た柢王に相談した。
「八百長なんてばれたら、それこそアシュレイは一生ティアを許さないんじゃないか?それが判らなくなるほど、ティアもきちまってるってことか」
 柢王も溜息をつく。
「なんとかしてやりたいのは山々だが…」
「見返りはヴィンテージものの聖水10本だそうです」
「解った。アシュレイに絶対ばれないようにすりゃあいいんだろ?」
「柢王?!」
 そんなに聖水は魅力的なものなのか?桂花は呆れた様に柢王を見返す。柢王にしてみれば、理由も聞かれずヴィンテージものの聖水が大量に手に入るなんて、願ってもないチャンスな訳で。
 何にしろ、守護主天様が仕事に向き合う気力を取り戻してくれれば自分の憂鬱も解消される。後はどうでも良いかと、秘書殿は当日の段取りを考え始めた。

「えええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!! アシュレイが不参加―?!」
 開催前日になってのことであるが、秘書殿は淡々と報告だけを述べてゆく。
「はい、何か南の王を怒らせたらしく、当面謹慎とのこと。キャンセルというわけにもいかないだろうと、炎王自らがご参加だそうです」
「…有り得ないだろう、それは….(絶句)」
「なお、柢王も魔族の卵に異常が見られるとのことで、こちらも参加できない、わりい。と、先ほど使い羽が」
 守護主天様は哀れなほどに狼狽していた。
「さ、山凍殿に…」
「北の王からも、先王が倒れた為、不参加の連絡が来ております。なお、命に別状はないとのこと」
 残る優勝候補といえば、割れ顎トロイゼンを筆頭とする、守護主天様にしてみれば、お願い〜♪へ♫近寄らないで〜♬ と言いたくなるようなムサイ猛者ばかり。
「け、桂花…?」
 そーっと、仰ぎ見ると、秘書殿は冷たい目で
「無理です。私は姿隠術も壁抜けもできませんから。今宵は自業自得という言葉の意味を、よく吟味されては?」
と、言うと、守護主天様が浮かれた勢いでほぼ全て終わらせた、大量の書類を満足そうに抱えて出て行ってしまった。呆然と佇む守護主天様を残して。

 翌日―
 予想通り、各国のゴツイマッチョ達が部門優勝を果たし、残るは今年から設定された総合戦のみ。
 どのように闘えばよいのかと詰め寄られ、守護主天様はだらだら冷や汗を流しながら、つい焦って結界を張ってしまった。
 ※ここでは結界が見えると言う前提で…(汗)
「わ、私の結界を破った方を、総合優勝者に…」
 とっさに口をついた言葉だったが、そこにいた全員が「詐欺か?!」という目で守護主天様を睨んだ。無敵の守護結界。天界人に破ることが出来ないのは、誰もが知っていること。
 その時、ふらふらと飛んでる影があった。
「アシュレイ?!」
 当然、最初に守護主天様が気付き、はっと桂花を見ると、ついと目を逸らされた。
「桂花…」
 何か策を講じてくれたのだろう。感謝で、守護主天様の目がうるうると潤む。
「クソ…オヤジっ…!俺…にも…闘わせ…ろ…」
 体の中に入れられなかったのか、斬妖槍を手に持ち、霊力の乏しいまま南領から飛んできたのであろう、アシュレイがふらつきながら着地した。
そのままよろよろと守護主天様の方によろめいたアシュレイの持つ斬妖槍が、結界壁にぶつかりそうになったタイミングと、慌てて守護主天様が結界を解いたタイミングはほぼ同時。
「勝者、南領アシュレイ殿!」
 桂花の声が高らかに響く。
 百万歩譲ったら、アシュレイの斬妖槍が結界壁を破ったように見えなくもなくも無いかもしれないが….。
 守護主天様は意識朦朧のアシュレイを抱き抱えながら。心の中で桂花に跪き、最高礼をとっていた。

 さて、武術催総合優勝者へのご褒美は実現したのか否か。実現したなら春の風が吹いたのか、血の雨が降ったのか。こちらは余人の知るところではない。但し、総合戦は廃止になったとのことらしい。
 また、風の噂では、守護主天様が秘書殿にお礼として、大量の服を贈ったとか贈らなかったとか…。
 なお、秘書殿の憂鬱は、本日も赤毛のサルに左右されてるようである。


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