投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3
幼い頃から、気がつけば、いつもティアの目は彼のことを追っていた。
幼なじみで親友のアシュレイ。
今日もティアは体術の授業を見学し、思う存分、想い人の姿を眺めている。
級友達と走り回っている姿は誰よりも光輝いていて、その眩しさに彼以外の存在など霞んで見えないくらいだ。
「よだれが出てるぞ、ティア」
横から声をかけられ、ティアは慌てて袖で口元を拭う。
「バーカ、冗談に決まってるだろ。全くなんて目で見つめてるんだ。こっちが恥ずかしくなる」
もう一人の幼なじみ兼親友の柢王。2年前に塾は卒業したものの、今日は塾の手伝いに来てるのだろう。勘の良い彼には、ティアの想いなどとうに見透かされており、こうやって時々からかわれている。
「いい加減、どうにかしろ。もうすぐ卒業だろ?卒業しちまったら、こうやってしょっちゅう会えないんだぞ?」
できるものならとっくにやっている。
だが、ティアは怖いのだ。
-男同士なのに。気持ち悪い-
そんな風に返されるのを。
恋愛に関して幼すぎる彼に今告白したところで、上手く行くわけが無い。今の関係すら壊れてしまうほうがもっと辛い。
ハッパをかけて去って行く、この要領の良い男なら、きっとなんなくこなしてしまうのだろうが、ことアシュレイに関してだけはティアは臆病になってしまう。
最初は憧れだった。
アシュレイが暴れたり壊したり感情のままに行動をおこすのを見ると、自分の代わりに動いてくれてるようで、気持ちが良かった。
正義感が強くて、悪い事をした者には、ストレートに糾弾する。ごまかすことも、逃げることも許されない。自分がぐずぐずかどがたたないよう考えている間に解決しているのも胸がすく。
そのくせ、本当はとっても優しくて、自分が禁忌のかかった身と知ると、不器用に気を使い、いつしかティアにとって特別な存在なった。
なによりも、乱暴者と言われる粗野な言動で気付かれてないが、元々顔立ちは整っている上、仕種と表情が可愛い。媚びなんて高度な事ができる子じゃない。全てが自然体なのにあの可愛いさは魔性のようだとティアは思う。
憧れは恋に変わっていた。
徹夜明けで疲れた日には、いけないと思いつつ、つい起きぬけのアシュレイを、遠見鏡で覗いてしまう。
頭は布団に突っ込んだまま、なんとか起きようと、お尻をモゾモゾさせて猫のポーズをとるのも可愛い。
着乱れて肩が開けてるのも可愛い。
寝ぼけ眼なのも可愛い。
大きなあくびも可愛い。
もう一度ぱたっとベッドに倒れ込んでしまうのも可愛い!
ああもう、「好き」が止まらない…
この大切なたからものがいる天界を守る為と思えば、徹夜とて辛くないと、ティアは遠見鏡にかじりつく。
だが、遠見鏡では彼の温もりも匂いも感じる事がてきない。
塾を卒業してしまったら、昼休みに寝込みを襲うこともできないし、レポートを書く為にアシュレイが天主塔に泊まり込むことも無くなる。彼が軍に配属されてしまったら、一ヶ月以上会えないなんてことも有り得るだろう。
その前に、今の関係を壊さないまま、もう少し二人の関係を進展させておきたかった。一ヶ月ぶりに会ったりしたら、抱きしめるくらいで済む訳がない、と自分でもわかっているから。
気持ち悪いと言われないとしても、俺は女じゃねえとか、一筋縄で行かないことははっきりしている。
でも、親友の自分が「お願い」すれば、優しい彼に絶対の拒絶はないはず。
柢王は自分がアシュレイに告白しやすいよう、暫く距離をとるつもりなのをティアは気付いていた。
アシュレイに他に親密な相手などできないよう、手はうってきた。そうすれば淋しがり屋のアシュレイは、口ではなんと言ってても、柢王がいなければ自分のところに来るしかないのだから。全てを平等に愛する守護主天にあるまじき行為。アシュレイが知ったら軽蔑するだろう。
それでも、このたった一つのたからものを諦めることも、我慢することも自分にはできないと、とりあえず、唇で触れる事だけでも受け入れられるよう、策を練っている。
・元服後、守護主天の仕事は今までと比較にならない程大変になり、霊力の消費が著しくなること
・王族の上質な霊力を少量提供して欲しいこと
・柢王よりアシュレイの霊力の方が上質であること
・守護主天は、口から霊力を吹き込むことが出来ると共に、逆に吸い取る事も出来ること
・守天として、霊力を提供してもらわなければならないのは、余りみっともいい話ではないので、他言しないで欲しいこと
柢王なら腹をよじって笑い転げるであろう、とって付けたような「お願い」でも、アシュレイなら真剣に協力してくれるだろう。これに慣れたら、次の段階に進む策も考えてある。
(嘘じゃないもの。本当に元気になれるし、君が傍に居てくれたらいくらでも強くなれる)
騙してる訳じゃないと、ティアは自分を納得させる。
アシュレイは、責任感が強く、絶対に浮気なんか出来ない子だから、彼が王家の義務として結婚するまでの短い間になるけれど、彼の恋人としていられる時間が存在すれば、その想い出を胸に生きていけるとティアは思っている。
彼の子供もきっと愛することが出来るだろう。彼の伴侶を愛する自信はないが….。(考えただけで、嫉妬で頭がくらくらする)
少しでも、その時間を延ばすためにも、卒業したらすぐに実行に移す予定だ。
卒業式の日。
「アシュレイ、これからはなかなか会えなくなるね」
「俺、今までみたいに天主塔へ行くぞ。いいだろ?」
「大歓迎だよ。でも、元服まではお互い忙しいだろう?元服が終わったら、少し時間をもらえない?…聞いて欲しい「お願い」があるんだ。私にとってとても大事な話で…これは他の人じゃ駄目で、あ、柢王にも言わないで欲しいのだけど(先に内容ばらされたら困るし)」
「柢王にも?それは、守護主天の仕事に絡む事か?」
「え?まあ、直接はないけど(仕事が手につかない)影響は大きいかな」
アシュレイの頬が朱に染まる。
(何の話か気付いてる?!これは正直に話した方がいいのか?)
ティアはドキドキしながら続ける。
「私…」
「皆まで言うな!特命ってヤツだな!」
「そう、恋人に…は?特命?!」
顔を上気させ、目はキラキラ、鼻を膨らませて興奮してるアシュレイの顔が余りにも可愛くて、つい見とれてしまい、ティアは誤解を解く機を逸してしまった。
「任せとけ!俺、絶対おまえの…守護主天の役にたってみせるから!」
「待って、アシュレイ、これは…」
「じゃあ、元服式の後でな!」
焦るティアを置き去りに、光りの速さでアシュレイは帰ってしまう。
「アシュレイ、暫く会えないのに、名残惜しいとか無いの〜?!」
ティアの叫びは当人に届きはしなかった…。
(どうしよう…。あんなに張り切ってるのに、今更、あんなつまらない「お願い」なんて言えない…。内緒のお願いが、内密の指令と思い込むなんて。確かにアシュレイは、元服をとっても楽しみにしてたけど…。特命は守護主天の恋人になること。なんて言ったら、アシュレイ怒るだろうなー。なんか無理矢理特命を作るしかないだろうか)
ティアは必死で特命を考えていたが、元服を迎えた後、それどころの話ではなくなり、二年後に「特命」ではなく「なしくずし」という形で、想いは成就することとなる。
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