投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3
三界学園の名物の1つは、朝の風紀委員長による、風紀チェックである。
クールビューティーな風紀委員長にチェックされたいが為に、わざと違反して、罰則を淡々と言い渡され、泣いたものは数知れず…
「桂花風紀委員長、おはようございます!」
「おはようございます…空也さん、ネクタイをしていませんね。もう何度目ですか?罰として、学校中のトイレそうじを1週間、一人でなさい」
にこりともせず、冷たい口調で淡々と言い渡されて、空也は、地面にガクリと膝をついた。
薄い微笑付きで、罰を言い渡される事を、夢みているのに、今まで、一度も見られたことがないのだ。
桂花が風紀委員になった、最初の頃は、たくさんいた、そんな生徒達も、今は、空也一人となっている。
とぼとぼと教室に向かう空也の背中を見ながら、桂花は、懲りない人ですねと、ため息を押し殺し、腕時計で時間を確認した。
もうすぐ予鈴の鳴る時間だ。
そこへ、焦った様子もなく、のんびりと登校するものがいた。
担任で、体育の先生だ。授業は鬼だが、ざっくばらんで、生徒の人気も高いのだが…
「柢王先生、おはようございます…なぜ、生徒と同じ時間に登校するのですか?しかもぎりぎりに…ジャージを着て登校するのは、如何なものでしょうか」
先生の風紀チェックまでする必要はないと思うのだが…当の柢王先生は、ふぁぁ〜と、大あくびしている。
「おはよう。それは、前から言ってるが、桂花の風紀チェックを受ける為だろ」
「何度も言ってますが、風紀委員が、風紀チェックするのは、生徒だけです」
「残念すぎる…俺も学生になろっかなー」
こんな先生に、付き合っていられないと、桂花は、ゆるく頭を振って、足早に教室へ向かう。予鈴まで、校門にいる風紀委員は、本鈴までに、教室に向かわなければ遅刻になってしまうのだ。
「おはよう。いつも美人だね」
教室につくと、隣の席の一樹が、机に頬杖をついたまま、ふんわりと笑って言った。
「…おはようございます。シャツを第3ボタンまで開けて着るのは、何度も、風紀違反だと言ってますが?」
「似合ってるから、いいんじゃないかな」
そう言う問題ではないのだが、ふわっと、笑うこの人に罰則を与えても、代わりに罰を受けたい生徒達が列を成してもめるので、桂花は、注意するだけにしていた。
本鈴が鳴るのと同時に、ガラッと乱暴に教室のドアを開け、アシュレイが「間に合った〜」と、教室中に聞こえる声で言った。
桂花は、なぜそのような事をわざわざ宣言するのだろうかと、いつも疑問に思う。だから、注意せざるをえないのだ。
「生徒の見本となる、生徒会長が、ぎりぎりの時間に登校するなど、生徒会長の自覚が足りませんね」
「ちっ…風紀委員長だからって、でかい面しやがって」
「しかも、ネクタイは、きちんと結ぶように、毎日言ってますが、いつになったら風紀を守ってくださるのですか?」
「うるさいっ」
「はいはい、そこまでにしておけよ」
校門で、桂花に会った後、急いで職員室に立ち寄ってから来た、柢王先生が、風紀委員長と生徒会長をとめる。
それが、この学園の毎朝の名物である。
幼い頃から、気がつけば、いつもティアの目は彼のことを追っていた。
幼なじみで親友のアシュレイ。
今日もティアは体術の授業を見学し、思う存分、想い人の姿を眺めている。
級友達と走り回っている姿は誰よりも光輝いていて、その眩しさに彼以外の存在など霞んで見えないくらいだ。
「よだれが出てるぞ、ティア」
横から声をかけられ、ティアは慌てて袖で口元を拭う。
「バーカ、冗談に決まってるだろ。全くなんて目で見つめてるんだ。こっちが恥ずかしくなる」
もう一人の幼なじみ兼親友の柢王。2年前に塾は卒業したものの、今日は塾の手伝いに来てるのだろう。勘の良い彼には、ティアの想いなどとうに見透かされており、こうやって時々からかわれている。
「いい加減、どうにかしろ。もうすぐ卒業だろ?卒業しちまったら、こうやってしょっちゅう会えないんだぞ?」
できるものならとっくにやっている。
だが、ティアは怖いのだ。
-男同士なのに。気持ち悪い-
そんな風に返されるのを。
恋愛に関して幼すぎる彼に今告白したところで、上手く行くわけが無い。今の関係すら壊れてしまうほうがもっと辛い。
ハッパをかけて去って行く、この要領の良い男なら、きっとなんなくこなしてしまうのだろうが、ことアシュレイに関してだけはティアは臆病になってしまう。
最初は憧れだった。
アシュレイが暴れたり壊したり感情のままに行動をおこすのを見ると、自分の代わりに動いてくれてるようで、気持ちが良かった。
正義感が強くて、悪い事をした者には、ストレートに糾弾する。ごまかすことも、逃げることも許されない。自分がぐずぐずかどがたたないよう考えている間に解決しているのも胸がすく。
そのくせ、本当はとっても優しくて、自分が禁忌のかかった身と知ると、不器用に気を使い、いつしかティアにとって特別な存在なった。
なによりも、乱暴者と言われる粗野な言動で気付かれてないが、元々顔立ちは整っている上、仕種と表情が可愛い。媚びなんて高度な事ができる子じゃない。全てが自然体なのにあの可愛いさは魔性のようだとティアは思う。
憧れは恋に変わっていた。
徹夜明けで疲れた日には、いけないと思いつつ、つい起きぬけのアシュレイを、遠見鏡で覗いてしまう。
頭は布団に突っ込んだまま、なんとか起きようと、お尻をモゾモゾさせて猫のポーズをとるのも可愛い。
着乱れて肩が開けてるのも可愛い。
寝ぼけ眼なのも可愛い。
大きなあくびも可愛い。
もう一度ぱたっとベッドに倒れ込んでしまうのも可愛い!
ああもう、「好き」が止まらない…
この大切なたからものがいる天界を守る為と思えば、徹夜とて辛くないと、ティアは遠見鏡にかじりつく。
だが、遠見鏡では彼の温もりも匂いも感じる事がてきない。
塾を卒業してしまったら、昼休みに寝込みを襲うこともできないし、レポートを書く為にアシュレイが天主塔に泊まり込むことも無くなる。彼が軍に配属されてしまったら、一ヶ月以上会えないなんてことも有り得るだろう。
その前に、今の関係を壊さないまま、もう少し二人の関係を進展させておきたかった。一ヶ月ぶりに会ったりしたら、抱きしめるくらいで済む訳がない、と自分でもわかっているから。
気持ち悪いと言われないとしても、俺は女じゃねえとか、一筋縄で行かないことははっきりしている。
でも、親友の自分が「お願い」すれば、優しい彼に絶対の拒絶はないはず。
柢王は自分がアシュレイに告白しやすいよう、暫く距離をとるつもりなのをティアは気付いていた。
アシュレイに他に親密な相手などできないよう、手はうってきた。そうすれば淋しがり屋のアシュレイは、口ではなんと言ってても、柢王がいなければ自分のところに来るしかないのだから。全てを平等に愛する守護主天にあるまじき行為。アシュレイが知ったら軽蔑するだろう。
それでも、このたった一つのたからものを諦めることも、我慢することも自分にはできないと、とりあえず、唇で触れる事だけでも受け入れられるよう、策を練っている。
・元服後、守護主天の仕事は今までと比較にならない程大変になり、霊力の消費が著しくなること
・王族の上質な霊力を少量提供して欲しいこと
・柢王よりアシュレイの霊力の方が上質であること
・守護主天は、口から霊力を吹き込むことが出来ると共に、逆に吸い取る事も出来ること
・守天として、霊力を提供してもらわなければならないのは、余りみっともいい話ではないので、他言しないで欲しいこと
柢王なら腹をよじって笑い転げるであろう、とって付けたような「お願い」でも、アシュレイなら真剣に協力してくれるだろう。これに慣れたら、次の段階に進む策も考えてある。
(嘘じゃないもの。本当に元気になれるし、君が傍に居てくれたらいくらでも強くなれる)
騙してる訳じゃないと、ティアは自分を納得させる。
アシュレイは、責任感が強く、絶対に浮気なんか出来ない子だから、彼が王家の義務として結婚するまでの短い間になるけれど、彼の恋人としていられる時間が存在すれば、その想い出を胸に生きていけるとティアは思っている。
彼の子供もきっと愛することが出来るだろう。彼の伴侶を愛する自信はないが….。(考えただけで、嫉妬で頭がくらくらする)
少しでも、その時間を延ばすためにも、卒業したらすぐに実行に移す予定だ。
卒業式の日。
「アシュレイ、これからはなかなか会えなくなるね」
「俺、今までみたいに天主塔へ行くぞ。いいだろ?」
「大歓迎だよ。でも、元服まではお互い忙しいだろう?元服が終わったら、少し時間をもらえない?…聞いて欲しい「お願い」があるんだ。私にとってとても大事な話で…これは他の人じゃ駄目で、あ、柢王にも言わないで欲しいのだけど(先に内容ばらされたら困るし)」
「柢王にも?それは、守護主天の仕事に絡む事か?」
「え?まあ、直接はないけど(仕事が手につかない)影響は大きいかな」
アシュレイの頬が朱に染まる。
(何の話か気付いてる?!これは正直に話した方がいいのか?)
ティアはドキドキしながら続ける。
「私…」
「皆まで言うな!特命ってヤツだな!」
「そう、恋人に…は?特命?!」
顔を上気させ、目はキラキラ、鼻を膨らませて興奮してるアシュレイの顔が余りにも可愛くて、つい見とれてしまい、ティアは誤解を解く機を逸してしまった。
「任せとけ!俺、絶対おまえの…守護主天の役にたってみせるから!」
「待って、アシュレイ、これは…」
「じゃあ、元服式の後でな!」
焦るティアを置き去りに、光りの速さでアシュレイは帰ってしまう。
「アシュレイ、暫く会えないのに、名残惜しいとか無いの〜?!」
ティアの叫びは当人に届きはしなかった…。
(どうしよう…。あんなに張り切ってるのに、今更、あんなつまらない「お願い」なんて言えない…。内緒のお願いが、内密の指令と思い込むなんて。確かにアシュレイは、元服をとっても楽しみにしてたけど…。特命は守護主天の恋人になること。なんて言ったら、アシュレイ怒るだろうなー。なんか無理矢理特命を作るしかないだろうか)
ティアは必死で特命を考えていたが、元服を迎えた後、それどころの話ではなくなり、二年後に「特命」ではなく「なしくずし」という形で、想いは成就することとなる。
前回までのあらすじ
親友のティアの手により、コールドスリープから十年ぶりに目覚めたアシュレイ。
だがアシュレイは、十年後の彼を、どうしても本人と認められないのだった。
...って、2行で終わる内容です...。前編すっ飛ばしてOKです...。
「私たちの国では、コールドスリープは認められていないのよ。重犯罪になるの。いいえ、我が国だけでなく、今では世界的にも認められてないの。十年前、あなたの葬儀を執り行ったわ。あの時、ティアランディア殿に全てをお任せした。彼なら、きっとあなたを幸せにしてくれるわ。こうして、元気な顔が見れたのも、彼が大事にしてくれてるからと良く判る。もう、ティアランディア殿に護っていただくしかないの。解ってね?父上は立場上、来れないけど、いつかあなたに会える日を心から待っているわ。アシュレイ、愛してる。これは父上の分」
そう言うと、姉上はもう一度唇を俺に押し付けた。
俺は、どんな顔をしてたんだろう。姉上は心配そうに帰っていった。
「は、はは…。俺は、もう家族にも国にも不要になってたんだな、十年も前に!葬式もしたって?俺は、アシュレイ・ロー・ラ・ダイは、今や存在もしてないってか?じゃあ、ここにいる俺はなんなんだよ!何で、何で俺をそのまま死なせなかったんだよ!」
喚く俺の肩を、やつは優しく抱きしめる。
「十年前の私は、君を誰にも取られたくない独占したいというだけの、ただの我が儘な子供だった。でも今は違う!今なら、君を護る術を身につけたし、それだけの自信もある。君を護れるのは私だけだ。私に君を護らせてくれ」
「おまえに護られるだけの人生に、なんの意味があるんだよ!」
俺はティアを護りたかった。それが俺の存在する意味だと思ってた。
「てめえなんか嫌いだ!触るな変態!俺の親友を返せよ!俺の大好きだったティアを…」
情けなくて、ヤツの腕を乱暴に払う。
ティアはいつでも俺の一番欲しい言葉をくれた。口下手で、いっつもどうやって説明していいか解らなくて、とりあえず思うままに動いては、周りに怒られてた俺の考えを、ちゃんと理解してくれてた。
ティアに会いたい。俺は、慰めて欲しいのか?なんでこんなに情けないヤツになっちまったんだろう。
いつも大人っぽいティアに、いつかは肩を並べて対等になりたいと思ってた。俺を必要として欲しかった。でも、それはもう、一生できなくなっちまった。どんなに追いかけても追いつかない、それどころか、護られなきゃ生きていけないだなんて、俺の存在価値なんかないじゃないか。
「お願い。今だけ、十年前の私だと思って聞いて」
くちなしの香りがベッドに伏せた俺の体にそっと被さる。
「子供の頃、私は命を狙われてて、何度も君に助けてもらったよね」
そう、解んねーけど、なんでか、俺はティアが狙われてるのに気付いて、あいつを突き飛ばしたり、相手を倒して危機を免れてた。ティアは獣の勘だって言うけど。
「でも、体や命だけじゃなくて、君は私の心を救ってくれた。誰も信じられなくて、早く殺されてしまえば楽になると思ってた私に、君だけがいつでも真実をくれた。君の高潔で真直ぐな心に魅かれていった。君がいるから、君を本気で好きになったから、私も生きていたいと思った」
あの日、ティアが女子に優しくしてるのに嫉妬して、あいつに冷たくあたった。その後にあの告白。きっとあれも、確かなものが欲しいという俺が望んでた言葉だったんだと、今ではわかる。俺だって、おまえが...。
「君が眠っている間、私は笑えなくなっていた。君が必要なんだ。君がいなければ、私も生きていけない」
こんな俺を必要としている?本当に?
「---今日は私の誕生日って覚えてる?お願い。私に君の一年をプレゼントしてくれない?私の為に生きて欲しい。本当に意味の無い人生なのか、一年後に考えてもらえないか?何でも君の好きにしていい、君が嫌がることは絶対にしないから。愛しているんだ…」
涙が零れる。
凍りついた心が少しずつ溶かされる。俺の大好きだったティアの優しさで。
こいつは、この十年間、どんな想いで過ごしてきたのだろう。
十年前の親友と、今ここにいる男が一つに重なっていく。
「お願い」
ティアの泣きそうな声に、俺は小さく「うん」と答えた。
あれから一年。
俺はこの時代にもやっと慣れたし、やりたいことも、やるべきことも解ってきた。
護られるばかりじゃなくて、あいつの役に立てるように、俺が俺でいられるように、きちんと治してくれたティアに感謝している。
あいつは約束通り、相変わらずの態度の俺に、無理強いはしなかった。切なそうな瞳にほだされそうにはなったが。
「ティア…。今日、誕生日だな…」
ティアの顔が真剣になる。この一年の俺を見ていても、まだ心配なんだろうか。俺はすまない気持ちで一杯になる。
「俺…、今は生きてて良かったと思ってる。おまえと一緒にいられて幸せだと思うし、感謝もしてる」
ティアがゆっくり微笑む。
「だから、感謝の気持ちをこめて誕生日プレゼント渡したい…。その…今の俺が唯一持ってるものを…。……俺…自身を…」←古典
「え?」
思い切り勇気を振り絞ったけど、最後は消え入りそうな声になってしまい、聞こえなかったかもしれない。だけどこんなこと二度は言えねえ!
「アシュレイ…本当に良いの?」
う…、聞こえてた…。俺は、自分でも耳まで真っ赤になってるのが判り、死ぬ程恥ずかしかったが、首を縦に振ってやった。
「ありがとう…。こんな嬉しい誕生日プレゼントはないよ…」
くちなしの香りに包まれると、気負ってた体からちょっとだけ力が抜けていった。
時間だけ十年スキップしたけど(スキップがぶっ飛ばすって意味なことも覚えた)、やっぱり俺は未だ15歳のガキだと思うし、一年ずつ年をとって成長していきたいと思う。ティアなら俺の戸籍を何とか復活させることも可能らしいけど、俺は15歳の別人の戸籍を新しく作ってもらった。ティアと10歳違いの。
今は、未だあいつのずっと後ろにいるけど、十年後には手を伸ばせば肩に届くくらいの距離まで近づきたい。そしていつかは、ちゃんと肩を並べられるまでになってやる。十年の年の差なんて関係ない。いつかは無くしてみせる。
それまで、ずっとティアと一緒にいたい。-----結婚は兎も角。(だから俺は未だ15歳のガキで、そんなとこまでは考えられねえよ!)
ちなみに、翌朝しつこいティアには「誕生日は終わった!」って、掌底を食らわせてやった。「そ、そんな…」って言いながら床にのめりこんでたけど、知るか!ああああんなこと、もう、しねえ!------俺がもう少し大人になるまでは…。
★一応、年の差ですが、別世界の無理矢理設定です。年の差は難しいっす〜。次回(何時?!)のお題が、邪・サ○エさん 再 だったりすると嬉しい…
「アシュレイ。君を愛してる。結婚して欲しい」
親友だと思っていた奴-ティアランディア-にそう告白された時、心臓がひっくり返るかと思うくらい驚いた。
結婚?!俺たち未だ14歳だぞ!つか、てめぇは未だ13歳じゃねえか。いや、それ以前に男同士だぞ?!!
そう答えようとしたら、胸に締め付けられるような痛みが走り、意識が遠くなる。
バカ野郎、心臓がひっくり返るどころか、止まりそうだ。おまえが変な事言うから…。
くちなしの香りがする。
あいつが好きでいつも身にまとってた香り…。
「...レイ、アシュレイ?」
誰かが俺を呼んでいる。
あの、バカな告白をしてきた親友ティアの呼び方に似てる。でも、あいつはこんな低い声じゃないし…。
「アシュレイ、判るか?」
ゆっくりと目を開けると、心配そうな綺麗な顔をした男が見えた。ティアに良く似ていたけど、うんと年上の大人の男だ。ティアに兄貴がいたっけ?
「…どこ…?」
男は、ほっとした顔をすると、ここは病院だと教えてくれた。ちくしょう、やっぱり心臓が止まったんじゃねえのか?今度ティアに会ったら、絶対にぶん殴ってやる。
「痛いところは無い?あ、未だ起きちゃダメ。眠かったら寝ても良いからね」
起きようとした俺をそっと押し戻し、冷たくて優しい手で俺の前髪をかきあげる。なんだか気持ちイイ…。
「俺、どうなったんだ?」
「…心臓の手術をしたんだよ。意識もしっかりしてるようだし、後はゆっくり休んで体力をつければ元通りになるよ」
「手術?!」
そんなことになってたとは!あいつ…一発じゃ足りねえ、百殴りだ!
「おまえ、医者か?」
男は一瞬、なんでか寂しそうな顔をする。
「ん、君を手術したのはこの私だ。さあ、もう疲れたろう?しばらくお休み」
男はもう一度髪をなでてくれた。こいつの纏う空気はティアによく似てて、ティア以外の他人がいると眠れない俺だが、気持ちよくなってそのまま眠ってしまった。
その後、俺は驚愕の事実を知らされる。
俺が倒れてから、十年が過ぎてるって言うんだ。
言ってることが難しくてよく判らなかったけど、俺がぶっ倒れたのは、今の技術じゃ治せないような病気のせいで、ティアは俺を氷付け?にして時間をかせぎ、医者になって俺の病気を治す研究に十年かけた、ってことらしい。
昔、スキップすると年に関係なく外国の大学へ行けるとかで(スキップなんてガキの頃以来やってねえけど、なんで大学に行けるのか全くわかんねえ)ティアは外国へ行けって言われてたけど、俺と一緒にいたいからイヤだと断ってた(俺達、親友だからな!)。結局、今回スキップしたってことらしい。あいつスキップなんてヘタクソだったのにな。
で、俺の手術をしたって医者がティアの十年後だって言うんだけど、俺には赤の他人のオッサンにしか見えねえ。そう言ってやったら、ティア(の十年後)のヤツ、すっげ落ち込んでたけどさ…。ちょっと可哀そうになったから百殴りは許してやった。
十年後だなんて、ショックだったけど、病室から出てない身としては、十年後の世界が想像できない。ほんとにあの男がティアの十年後だとしたら、それだけが実感だ。…もう、あいつがティアだって、本当は判っていて認めたくないだけなのかもしれないけどさ。
同じくらいの身長だったのに、頭一つ分も差がついてるのも気に入らないし、同い年の親友には、俺が護ってるという誇りとプライドがあったのに、こいつには俺のおかれた状況の不安も有って、つい甘えてしまう。だから、ティアと認めたくないのかもしれない。甘えたいだなんて…、今だけだからな!
それにしても、こいつは「診察」って言いながら、やらしいことをしようとするので、油断がならない。
「私は医者だよ?なんでそんなに肌を見せることを恥ずかしがるかな。大体、ずっと一緒に寮のお風呂にはいってたじゃない。それに、私は君の知らない、君の体のことも知ってるんだよ」
俺の知らない、ってどこだよ!…(汗
「ああ、あんな綺麗な心臓は初めて見たよ。ほうっ…」
そんなものを思い出してうっとりするなー!こいつ絶対変態だ!
俺はひたすら、魔の手?を排除してるが、都度「可愛い」と言われるのはどうしてだ?!
「てめえがティアだっていうなら、てめえの方が可愛かったじゃねえか。心細いだの、雷が怖いのと、しょっちゅう怯えて俺のベッドに潜り込んで来て…」
ティアはクスクス笑いながら、
「もう!本当に君は可愛すぎるよ…食べちゃいたい…。君が病人じゃなければね」
と、蕩ける様な目で見つめてくる。意味わかんねえ!
しがみついてくるティアに、「俺が護ってやる」と、いつも安心させてたのは、この俺のはずなのに。
「ねえ、私のプロポーズの答え聞かせて」
げ、それって未だ有効だったのか?十年も経ってるんだろ?俺にとってはついこないだのことだけど…。
「だから…。俺は未だ14歳で…」
「君は、もう24歳なんだよ」
そうだった…。信じられないけど….。
「俺たち、男同士だし」
「ちゃんと籍の入れられる国があるよ」
なんだそれ!知らねえよ!!
「大体、おまえ昔から女にもてもてじゃん。おまえの女、たくさんいるんだろ!なんで俺に構うんだよ」
「正直に言うよ。確かに、もう君を治すことなんかできないんじゃないかと、自暴自棄になって、女性に逃げたときも有った。でも、君を失うことなんが考えられなかった。今は一切女性とは付き合ってない。君だけだよ。君だけを愛してる」
「や、やめろ!真剣な顔で言うな!今の俺には無理だ…。そーゆーこと考えられねえ!」
「今の?じゃあ、考えられるまで待つよ」
「待つなよ、待ってたって俺...」
「もう、十年待ったよ。いくらでも待てる。君のことなら。…ただ…。私ってそんなにオッサン?」
そりゃ、俺の親友に比べたら…。ティアも大人っぽかったけど、もっと大人の男っていうか、包容力があるというか。相変わらず細っこいのに、あの頃俺にしがみついてきた腕より全然力強くて、こいつの側にいる安心感も、あの頃ティアがくれたそれとは違って…。
「待つけど、それだけもっとオッサンになってしまうよ…」
「オ、オッサンはきらいじゃねえ!」
あいつが悲しそうな顔をするから、つい、フォローしようとして、訳わかんねえことを言ってしまったら、又クスクス笑われてしまった…。
「コールドスリープは脳細胞に影響がある可能性があるから、今日は簡単なテストをするよ?」
「テスト?!」
「…そんな難しいものじゃないから、構えないで」
うー。テストなんて俺の一番嫌いな言葉だが、これ以上バカになってたら困るので、一応テスト用紙を眺めてみる。
「7×7はしじゅう…????どうしよう!俺、マジでバカになってる!!」
「…君、昔から7の段が苦手だったよね…。解らないのはとばして良いから続けて。落ち着いて考えれば解るからゆっくりね」
俺の苦手なこと知ってるなんて、やっぱりティアの十年後なんだろうな。俺は教師の言ってることが理解できなくて、いっつもティアが後で解り易く教えてくれてた。だから、俺が苦手としてることとか、あいつには全部判ってる。
それにしても元気がないのは、俺がティアだと認めてやらないからか?
テストは、落ち着いてみれば、この俺でもなんてことはなかった。流石に九九も思い出したし。
「俺の脳ミソ、大丈夫だったんだろ?いつ退院できるんだ?」
「…君の姉上-グラインダーズ殿がこちらに向かっている。姉上とお話してからね?グラインダーズ殿は、遅くなったことを詫びてらしたけど、お忙しい方だからね」
わかってる。3歳の時に寮へ入れられてから(ティアとの付き合いはそれからだ)、親父とは何度も会ってないし、姉上は親父の補佐として働き始めてたから、最近(って十年前か?)は姉上にも殆ど会ってなかった。
親父は俺を跡継ぎにしたがってたけど、俺は姉上のほうが相応しいと思ってる。血筋的にも、人間的にも。
姉上は相変わらず綺麗だったけど、赤ん坊を連れていた。俺のガキの頃にそっくりな、赤い髪の坊主。
「ああ、アシュレイ!よかった、顔を良く見せてちょうだい」
姉上は俺に抱きつき、顔に何度も唇を押し付ける。ティアの視線がイタイ。
「ティアランディア殿、この子は息子のアーシェと言います」
「初めまして、アーシェ殿」
姉上は、赤ん坊をティアに紹介し、ティアの奴は、赤ん坊に「ちあー」とか言われて相好崩してやがる。なんか面白くねえ。
「アシュレイ、あなたの甥よ。父上の跡はこの子が継ぐわ」
え?親父は俺を諦めてくれたってことか?
姉上がティアに目で何かを確認し、奴は頭を振って応える
「アシュレイ、落ち着いて聞いてね」
次回予告
この後、アシュレイの人生を一転させる事実が発覚する!
二人の運命やいかに?!
(すません、5000字に納まらなかっただけです...)
★年の差…になりますでしょうか…
○年◇月△日 アーシェ1歳
アシュレイが魔族の毒で1歳児になってしまった。天主塔で預かることになったが、アシュレイとは別人格として、アーシェと呼ぶこととする。
私が傍にいないと眠れないだなんて、既に私無しでは駄目な体になってるということか?
今なら、アシュレイが望みそうなことなど全部解るし、理想の恋人になれる自信がある。
私のたったひとつのたからもの。
16歳年上の余裕で、会いに来てさえくれないような、冷たい恋人にならないよう、大切に育てよう。
◇年△月○日 アーシェ3歳
今日は文殊塾の入学式。
私のアーシェが、やっぱり一番可愛い。
悪い虫が付かないよう、毎日遠見鏡でチェックしなくては。
帰って来たアーシェに、気になる女の子はいなかったかと聞いてみれば、「えー、女なんか興味ねえよ。だいたい、ティアより綺麗な奴なんていねーし」と、可愛い事を言う。
ああ、早く成長しておくれ。
△年○月◇日 アーシェ5歳
生誕祭での正装は、誰にも見せたくないくらい愛らしかった。
ストロベリーブロンドに白いレースがよく映える。少し髪を伸ばさせてみようか。今なら女の子の格好も似合うだろうし。
これから毎年アーシェの肖像画を描かせよう。そして寝室に飾って寝る前の一時を癒しの空間に。
あ、私とのツーショットも良いかも知れない!早速明日画家を呼び寄せよう。
*年#月+日 アーシェ9歳
手足がすんなり伸びて、子供というより、少年の体型になってきた。
着せ替えごっこが楽しくてしょうがない。桂花なんて目じゃない。
アーシェにどの服が好みか聞いてみれば「ティアはどれがいいんだ?ティアの気に入ったやつがいい」と言う。冗談で少し色っぽい服を選んでみれば、すぐに着替え(デザインの意図が全く解ってない)、誇らしげに私に見せに来る。
ああ、絶対に私以外にはその姿を見せては駄目だよ…鼻血が止まらない。
#年+月*日 アーシェ12歳
12歳の誕生日…。そろそろ、あんなことや、こんなことも、教えて良い年だろうか。アーシェは同年代と比べても幼い。未だ早過ぎるだろうか。
そう思っていたらアーシェが真剣な顔で訴える。
「なあ、俺、何時になったらティアの本当の恋人になれるんだ?やっぱり、16も年下の俺なんてガキすぎて、おまえには相応しくないのか?俺、ティアを誰にも取られたくない...」
ルビーの瞳に涙を一杯ためて。
アーシェからの告白なんて、胸が震えるほどに嬉しいが、親子程も年の離れた私が、本当にこの可愛いアーシェの恋人になってよいのだろうか。
「年の差なんて関係ねえよ!俺、ずっとティアが好きだったし、一生ティアだけが好きだ!」
抱きついてきた、もう小さいとはいえない体を私も強く抱きしめる。
「ううう、アーシェったらなんて可愛いんだっ!」
「アーシェって誰だよ。何書いてんだ?」
ティアが驚いて顔を上げると、不機嫌そうなアシュレイ(現物)が、立っていた。
「アシュレイッ!」
大人二人が十分座れる大きな机を迂回するのももどかしく、ティアは机に乗るとアシュレイ目掛けてダイブした。
「わー!」
守護主天ともあろうものが、そんなお行儀の悪いことをするとは(しかも鈍臭いティアが!)思いもよらなかったアシュレイは逃げ損ね、抱きつかれて、床に押し倒された。
「ああ、アシュレイ!会いたかったよ〜!」
アシュレイはジタバタともがくが、この細い腕の何処にそんな力があるのかと言う程、がっちりしがみつかれて、外れない。
「退け!」
「アーシェのこと気になる?それってヤキモチ?」
「な訳ねーだろ!テメッ、燃やすぞ!」
「君の愛の炎で燃やし尽くして♪」
(ダメだ、こいつ、寝不足でおかしくなってる!)
アシュレイは、そう判断すると、何とか宥めすかしてティアを長椅子に座らせた。
「で?アーシェって誰なんだよ」
「君がこの前、魔族の毒で赤ん坊になった時、桂花の手前、アーシェと呼んでたんだよ」
「なんだと!まさか、魔族野郎に俺を触らせたりしてねえだろうな!」
「えー、君ってば桂花に懐いてべったりでさ、きれー、なんて言っちゃって。私には言ってくれな…!」
桂花の話をしたのは失敗だったと、ティアは溜息をつく。
どうして、滅多に寄り付かない恋人の姿を見ると、舞い上がってしまい、考え無しの言動をとってしまうのだろう。
つれない恋人に会えない淋しさを紛らわす為に、恋人が幼いまま元に戻らなかった設定で書き始めた妄想日記。
怒って自分を殴り飛ばして出ていってしまった恋人を思いつつ、うっとりと続きを書き始めるティアであった。
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