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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.273 (2010/07/04 11:34) title: 鮮やかに悟る心情
Name: (cr4-172-014.seaple.icc.ne.jp)

 窓の外はこんなにいい天気なのに。
 アシュレイは雲ひとつない空を見あげ、それとは対照的などんより淀んだ室内で、しきりに背後を気にしていた。 
ティアが訪れてから、どのくらい経っただろう?
氷暉に忠告されたばかりだ。ティアがなにに対して苛立っているかくらい見当がつく。だから、家の中には入れたくなかったのに・・・。
「やあ、帰ってたんだ?私が待っててって言ったのに、いなかったから心配したよ」
 棒読みのような口調が怖くて、一瞬ひるんだアシュレイを押して「お邪魔するよ」とティアは強引にあがり込んで来たのだ。

 掃除当番だったアシュレイに「私も用事を済ませてくるね。もしかしたら、私の方が遅くなるかもしれないけど、待ってて」と言ったティア。
 分かったと応えたけれど、掃除が終わって昇降口に行ってもティアの姿はなかったので、その間に氷暉に断りを入れておこうとアシュレイは室内プールへ向かった。
 そこで、自分が来る少し前に、ティアが氷暉にくぎを刺しに来ていたことを知り、彼の勝手な振るまいにムッとして、一人で帰宅してしまった結果が―――これだ。

「君さ・・・あの男のこと、好きなの?」
 くぐもった声でティアが切り出す。
 それまでの沈黙の方が気まずかったアシュレイは、一呼吸おいてからふり向き、思わず後ずさってしまう。真後ろまでティアが接近していたのだ。
「あ、あの男?」
「・・・私にあいつの名前を言わせるつもり?ずいぶん意地悪だねアシュレイ」
「氷暉・・・のことか?」
「やめてよ、君の口からあいつの名なんて聞きたくない」
「〜〜〜どうしろってンだ。言っとくけど俺はお前に責められるようなことは何もしてないぞ」
 氷暉が溺れていたと勘違いしただけだとか、人工呼吸になっていなかったとか、そんなことは置いといて。誰がなんと言おうとアシュレイにとっては人命救助以外のなにものでもなかったのだから、きっぱりと言い放つ。
「そうだよね・・・何もしてないよ、私には。あいつには君からしたっていうのにね」
「だからあれは人命救助だったって―――」
「・・・・本当にしたんだね・・・ひどいショックだよ。なんだって君からあんな奴に・・永遠に沈ませておけばいいものを!!・・・クッ」
 アシュレイのベッドに顔を突っ伏したティアの背中を恐る恐る叩くと、ガバッと起き上がった彼に体をつかまれ、組み敷かれてしまう。
「なにすんだよ!」
 またか?また、よからぬことをしようと?!アシュレイが睨みつけても、ティアは動じない。アシュレイに負ず劣らず強い瞳でまっすぐ見つめ返してくる。
「アシュレイ。確かに君が怒るのも無理はない。大勢がいる教室であんなことをして、君のプライドを傷つけて、退路も断った。それは悪かったと思ってる」
 それなら・・・と、口を開きかけたアシュレイの言葉を阻止してティアは続ける。
「私の気持ちを受け止める気がないのなら、全力で逃げて」
「え?」
「本気なんだよ。君が軽く受けとっている私の気持ちより、ずっとずっと本気なんだアシュレイ。君が好きなんだよ・・・もう、自分でもどうにもできないくらい」
 ごくりとティアの白い喉が動いて、彼の真剣さが伝わってくる。
「他の誰かに渡したくないんだ。無茶なこと言ってる自覚はある・・でも、我慢できない」
 浮かされたように、君を愛しているんだと何度もつぶやく唇が、髪から耳へと移動してそれを食む。
「ぅあ」
 くすぐったくて首をすくめると、今度は首筋におりてきた。余計にゾクゾクして暴れだしたアシュレイに、ティアは隙間がないほど密着して動かなくなった。
 互いの胸の鼓動が共鳴したかのようにはげしく打ちつけ合う。このままでは、ティアのペースに流されてしまう、とアシュレイは口火を切った。
「お前の気持ちはちゃんと分かってるつもりだ、でも、ちょっと、こういうのは俺・・」
「分かってないよ。分かってたら下心ある私をこんな簡単に部屋へあげたりするものか」
「し、下心ってお前・・・だいたいお前が勝手に上がってきただけだろーが!」
「ベッドがある部屋に・・・そんなことで信用されても私は嬉しくないからね。君って人は無防備にもほどがある。だからあんな奴に付け込まれるんだ・・・・逃げないの?」
 赤い髪を優しく払いながら、現れた額に唇をよせる。
「つけこむとか言うな、氷暉はそんなことしねぇよ」
「どうだか。ねぇ、あいつにこんなふうにされたら、とっくに殴り飛ばしてない?私が相手だから・・嫌じゃないから、戸惑うんじゃないの?」
 切羽詰まっていた声が、だんだん甘さを含み始めていることに、アシュレイは気づかない。
「うるさい、殴っていいなら殴るぞ。もうどけよ、重いんだよっ」
「じゃあ・・・私がアシュレイ以外の人に、こんなことしているところを見たらどう思う?君は何ともないの?」
「・・・・・・・」
 体をぴったり重ねあって、額に唇を押しつけたりして。
 端正な顔が、すぐそばで甘い言葉を囁きつづけ、繊細な指がやさしく髪を梳く。

―――――それを、自分以外の・・他のやつに・・・?

「そんな事しやがったら二度と口きかねーぞっ、この色欲魔!サッサと出てけっ!」
 容赦のない蹴りを入れ、悲鳴をあげてひっくり返ったティアの腕をひっつかむと、部屋の外へ追い出し、ドアを閉めた。
「アシュレイ!ごめん、例え話だよ!開けてアシュレイ、誤解だってば。こんなに君一筋だって言ってる私が、そんなことするわけがないよ!」
 ドンドン叩くティアに、耳を貸さず「帰れ!しばらくその面、見せんな」と冷たい言葉を浴びせたアシュレイは、とうとうドアを開けてはくれなかった。
 しかたなく家に帰ることにしたティアだったが、その顔は落ちこむどころか締りのない二ヤけた表情をしていた。

「アシュレイってば、自分で気づいていないんだ・・・あんな焼きもち妬いちゃって。フ、氷暉なんか目じゃないかも。フフフ・・・フフ・・・」

 道行く人に怪訝な顔で見られても、自信を持てたティアにとっては、どうでもよいことなのであった。


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