投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3
ぽかぽかと暖かい――少し動けば汗ばむほどの陽気である。
柢王が杯を口元に当てつつ見上げた先、ちょうど満開となった桜があった。
二人の家の程近く。最近の陽気で盛りになったと、折良い休暇に花見としゃれこんだのである。
柔らかい草が天然の絨毯となって二人分の体重を受け止めてくれる。常春の東領でもこの時期の緑は一際目に鮮やかだ。
「ごっそーさん」
桂花お手製の弁当も空になり、柢王はぐいと杯を干す。こんなに風が気持ちよい日は、冰玉も見知らぬ場所まで足を――羽根を、というべきか――伸ばしていることだろう。
肩に置かれた白い頭が震えている。ほろ酔い加減の桂花はなぜだかひどくご機嫌で、さっきからくすくすと笑い続けているのだ。
「んー、どうした? 桂花」
ふふ、と桂花は笑って緩慢に腕を上げた。
「すごい贅沢・・・ふたりだけで、こんな桜」
指し示す人差し指が、いつもならぴんとまっすぐなものを、今日はふわりと緩んでいる。
「綿みたい・・・」
つぼみは咲ききり葉はまだ出ていない、花びらの色だけの光景は壮観だ。ひとかたまりになった花は牡丹雪のように枝をふわりと包んでいる。
「綿、ね。確かにな」
柢王は昔お忍びで行った祭りを思い出す。引率してくれた山凍に、三人分の綿菓子を買ってもらった。アシュレイはあっという間に食べて口の周りをべたべたにしていたし、直接かぶりつくということを知らなかったティアランディアは手でちぎって食べようとして、手をやはりべたべたにしていた。口も手も汚さずに上手に食べた柢王が水場に連れて行ってやったものだ。
「甘いかな、あれ」
「あまい・・・?」
ひとり言をすくいあげた桂花の頭が傾き、柢王の胸の位置までずれてくる。
「おいおい、ちょっと待てって」
柢王は後ろに下がって木の幹に背を預けた。桂花の頭がちょうど胡坐をかいた脚の上に収まる。
「んー・・・」
満足そうなため息で桂花がわずかに頭をずらし、居心地の良い位置にたどり着いた。
「どうした? 今日はずいぶん甘えてくれるな」
紫水晶の瞳に浮かぶ光は柔らかい。桂花は無言で手を伸ばしてくる。
柢王はその手を捉えて指に唇を寄せる。銜えた指先は甘かった。
まるで砂糖菓子のように。
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