投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3
あの日、あの時、あの瞬間に吾の世界は色を失ってしまったのだろうか。
輝く星も、澄み切った空も、咲き誇る花も、吹き渡る風も、何も見えない。
見えるのは過去の記憶だけ…。
愛する人が教えてくれた星の名前、愛する人と駆け回ったあの空、愛する人が摘んでくれた美しい花、愛する人が生み出していた風。
見えるのは愛する人の記憶だけ。
なぜ吾が愛する人は皆、吾を置いて行ってしまうのだろう。
色を失った世界で生きていくことはこんなにも辛いというのに。
後を追うことも許されずに。
なぜ吾はまだ生きているのだろう。
あなたが命を失う時には吾もその手で殺して欲しい、そう願ったらあなたは吾を怒っただろうか。
「生きていることと死んでいることは違う」
そう言ったあなただから、きっと吾を怒っただろう。
だけど。
吾の願いは決して生きていても死んでいても変わらないから死んでもいい、というものではない。
あなたが…吾の全てだから。
あなたがいない世界で生きていくのは、あなたを失った瞬間の何倍も苦しいから。
だから、例えこの命を失ってしまうとしても永遠(とわ)にあなたと共に在りたかった。
記憶だけを残して旅立っていった人。
記憶すらも失って全てを、あなたを忘れてしまえれば、きっと楽になるのだろう。
あなたの記憶がなければ、あなたを思い出すことはない。
あなたを忘れてしまえたら、あなたを想うことはない。
そして吾は楽になって…胸の痛みを感じることもなく…そして幸せになるのだろうか。
何を感じることもなく何を想うこともなく、ただここにいて。
吾は…あなたといることが幸せだった。
あなたがいれば何もいらなかった。
でも。
愛する人はもういない。
それならば。
あなたの記憶を抱えて、胸の痛みすらも共に生きていくしかないのかもしれない。
どんなに辛くても、悲しくても、あなたを失った吾はあなたの記憶までも失うことは出来ないのだから。
愛する人は手の届かない場所に行ってしまった。温かい記憶だけを残して…。
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