投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3
「―――にしても忍も奇特だよね。俺だったらバックレちゃうよ」
昨日は二葉の誕生日。
けれど当の二葉はちょっとしたアクシデントから二日前に渡米。
特別な日だったから同行したかったのだけど、俺にも外せない仕事があり断念した。
小沼中心の内容だったからヤツは何とかすると言ってくれたのだけど、公私混同は一社会人として嫌だった。
二葉の誕生日を一緒に祝えないのは出会って以来初めてのことだ。
「誰の所為だよ」
小沼の言葉に脇のソファで雑誌をめくっていた悠がとがめる。
「わかってるっ」
悠に噛み付くように返した小沼だったけど、俺には悪いと思ったらしく「ごめんね」と小さくつぶやいた。
「いいんだ。これから先を考えたら自分のスタンスはしっかりしなくちゃ。それに小沼をほっぽって駆けつける俺なんか二葉は望んじゃいないよ」
「そうだよねっ!! 仕事には責任を持たなくっちゃ。 それに大地は続いてるんだもん、場所は違えど忍の気持ちはバッチリ伝わってるって」
殊勝な殻を見事にかち割り小沼は意気揚々言い募る。
責任・・・責任ねぇ。数秒でまったく逆の意を力説するおまえに言われるとは。
苦笑する俺の内心を悠は淡々と口に出した。
「支離滅裂。意味不明。―――それに言うなら空だろ、地はしっかり海に阻まれてる」
「うっ、海の底には地面があるもんっ」
勝てるわけないのに懲りずに小沼は応戦する。
でもこの悠の毒舌は好意なんだ。
証拠にちゃんと返してる。
以前は理解できなかったことだけど、今ではスンナリ受け止めるられる。
そんな二人のやり取りをぼんやりと眺め、俺はコーヒーをすすった。
「ふぇーーーん」
白旗を挙げた小沼が俺に泣きつく。
よしよしと小沼を慰めるのも毎度のこと。
「長居すると馬鹿がうつる」
そんな俺たちに厭きれた視線を流し、悠は仕事道具入りのボストンを肩にかけ扉に向う。
「お疲れ様」
その背に慌てて声をかけると、応じるように片手を上げ悠は姿を消していった。
あれ?こいつは?―――小沼置いてっちゃうの?
俺が小沼を送れない時は悠が世話を焼くのも習慣になりつつあるのだけど。
変だな?と俺は首をひねる。
「それより、ね。何にしたの? プレゼント」
置いていかれた本人、小沼はそんなの全くお構いなしに期待に溢れる目を俺に向けている。
まるで自分がプレゼントをもらうみたいだ。
「う――ん。今回はプレゼントは用意してないんだ。その代わりモーターショーによるつもり。幕張だったら成田からすぐだし、スーパーカーはもちろん、ハイブリッとカーやエコカーにも興味あるみたいだし」
この後、帰国する二葉を成田まで迎えにいく帰りの予定と、明日、明後日の休みは二葉の好きにしてやることがプレゼントだと小沼に話した。
「ヘッヘッへ、そう来ると思った♪ ジャジャジャジャ―――ン!!」
小沼は自分で発した効果音と共にリボン付の封筒を俺に差し出した。
「なに? わっ、これ!!」
「そ、ベイエリアの宿泊券と『東京モーターショー2007』の前売りチケット。ちゃ〜んと予約も入れてあるよ〜ん」
「―――よく取れたね」
それは俺が昨日満室を理由に断られたホテルだった。
モーターショー開催中だし、ベイエリアの中でも指折りのホテルだから仕方ないと諦めていたんだ。
「まっかせなさい♪ ―――って言いたいとこなんだけど、実は悠のコネなんだ」
「悠の?」
そりゃ悠ならコネの一つや二つ間違いなくあるだろう。けど・・・
あ、もしかして・・・。
だから?
さっさと帰ったのは照れ隠し?
俺の思考が通じたらしく「素直じゃないよね〜」と小沼は笑う。
らしくない悠の行動に胸が熱くなった。
そんな二人の厚意が嬉しく、早く二葉に会いたくて、じっとしてられず俺はコーヒーを置き立ち上がった。
迎えにはまだ早い。空港で数時間は待つことになるだろう。
でも、いいんだ。二葉のことを思っていたら時間なんてすぐ経ってしまうに違いないから、いや足りないくらいだ。
笑顔の小沼に見送られ車に乗り込む。
ハンドルを握りながらも微笑が浮かぶ。
二葉に会ったら、
二葉に会ったら、こう言おう。
『おかえり』そして『ありがとう』と。
祝いの言葉よりも先に感謝を伝えたい。
生まれてきてくれて、ありがとうって。
二葉は驚いた顔をするだろう。
でも、きっと言うんだ『サンキュウ』って。
抑えても抑えても溢れ出す心を纏い、俺はアクセルを踏み込んだ。
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