投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3
なぜ天主塔に麒麟が・・・・。
先日偶然見つけた、守天の気に入っている薬草を摘んで帰ってきた桂花は、中庭を抜けようとした所でその姿に気づき身動きがとれなくなる。
下手に動けば相手を刺激してしまう―――――否。既に魔族である自分の存在が許せぬ相手、何もせずとも十分刺激を与えてしまっているだろう。
以前、北の国でこの獣と出くわしてしまった時は、柢王が寸でのところで助けてくれた。
しかし今、その柢王はいない。
「・・・・・吾を殺すか」
小さく呟いた桂花に、ジリジリと間を詰めてくる麒麟。
一触即発の状況に嫌な汗が背中を伝う。
その時、突如青いものが麒麟めがけて飛び出した。
「冰玉っ!?やめろ!冰玉!」
麒麟には鋭い角がはえている。あんなもので一撃されたら、冰玉などひとたまりも無いだろう。
「逃げろ、早く!」
悲鳴のような声を無視して冰玉は狂ったように麒麟の体を突いていたが、それは岩の如く硬い鱗におおわれており、たとえ鏃であっても傷ひとつつけられない。
桂花はいよいよ焦って鞭を取り出した。
北の王がかわいがっている麒麟。それは百も承知だったが、このままでは冰玉が危ない。
ビュッと鞭をうならせた瞬間、それが何かに引っかかってしまった。
「?!」
鞭の先を見ると、南国の王子がその先端を手に巻いて浮いていた。
「何を―――」
「早まンな」
「でも、冰玉が!」
「反撃されてなかっただろ。孔明!悪かったな、こっち来いよ」
ごろんと石を転がして、アシュレイは孔明に手招きをする。
「今、ティアのとこに山凍が来てんだ。お前いなかったから孔明を庭で遊ばせてた」
冰玉を体にまとわりつけたまま目の前までやってきた麒麟に、桂花はゴクリと喉をならした。どこまでも追い詰めてくるこの獣の恐ろしさは身をもって承知している。いななき一つで体が動けなくなるなんてフェアじゃないと言いたいところだ。
「大丈夫だって。こいつは頭いいからな、お前らの事は襲いたくても襲わない」
「え?」
「柢王からも頼まれたしな。な?孔明」
ブルル、と鼻を鳴らしてから孔明は石にかじりついた。
その間も、冰玉は必死に孔明の尾をむしろうとしている。
「コラ、止せって冰玉――――ちっこいくせにお前を守ろうと必死なんだな・・・・お前ら似てるな」
フッと笑ったアシュレイに桂花が首をかしげる。
「似てる?」
「だってそうだろ、お前なんか柢王より弱いくせにいつも奴の楯になろうとしてたじゃん、そっくりだ」
彼は持っていた袋から更にいくつか石を出し、孔明の頭を撫でてやる。
「お前は本当に賢いな。普通なら本能で魔族を殺すところを・・・・俺達の言うことを理解してくれて、約束守ってくれてるんだもんな」
ガリガリと豪快な音をたて石を食べる孔明を見ながらアシュレイは微笑んだ。
「そういや、冰玉はなに食ってんだ?やっぱり・・・・あの、ムニムニか?」
「ムニムニ・・・?」
「ホラ、あれだ、あの蝶とか蛾とかになる・・・・」
嫌そうな顔をしたアシュレイに桂花は思わず嬉しくなってしまう。この暴れん坊にも苦手なものがあったのか、と口元がゆるんでしまいそうだ。
「ああ・・・・どうでしょう。食べるかもしれないし、食べないかもしれない」
どっちだ!とアシュレイが叫んでも、白をきる桂花。
桂花は勘違いしているようだが、実の所アシュレイは幼虫など素手で、平気でつかめる。
ただ、さなぎが羽化するところを見るのが苦手なのと、かわいい鳥がおいしそうにアレを食む姿はいただけない・・・・と思っているだけだった。
「もったいぶりやがって、このケチ魔族」
アシュレイがむくれて背を向けると、孔明が桂花をギロリと睨んだ。
なにもされなくても、とんでもない威圧を感じる。やはり麒麟は苦手だ。
対抗して孔明に眼を飛ばしている冰玉を抱いて、桂花はそそくさとその場を後にした。
歩きながらホッと息をつく。どうなるかと思った・・・・・。
冰玉を空に飛ばし、しばらく木陰で休んでいるうちに先ほどのアシュレイとのやりとりを思い出す。
『俺達の言うことを理解して、約束守ってくれてるんだもんな』
そうだ・・・確かに柢王は吾に手を出すなと麒麟に言ってくれていた。しかし、南の王子ほどあの麒麟との間に信頼関係があるわけではないとも言っていた。
『あいつはガキん頃から孔明に乗らせてもらったりしてよ、仲いいんだ。孔明もアシュレイの言うことはよく聞いてくれるしな。ま、山凍とアシュレイには叶わねーよ』
俺達の言うこと――――恐らく柢王だけでなく、南の王子も麒麟を説得してくれたのだろう。そして、北の王も。
ここには柢王以外、誰一人として味方はいないと思っていたが、自分達のために守天はとても良くしてくれた。彼なら信じてもいいのだと、天界で生活しているうちに思えるようになった。
柢王が留守の今、頼れるのは守天だけなのだと。
けれど――――――柢王だけじゃなかった。守天だけじゃなかった。他にも魔族の自分を受け入れようとしてくれる者がいる。守ろうとしてくれている者が。
柢王を本当に愛してくれている人たちと待つと決意したあの日からも、冷たいすきま風が吹き続けていた心に、あたたかなものが広がっていく。
不意にこぼれた雫を拭って、桂花は冰玉を呼んだ。
腕に降り立った龍鳥の体に頬を押しあてささやく。
「吾は一人じゃなかった・・・・・」
クルルと鳴いて冰玉はしきりに桂花の頬へくちばしを滑らせる。
「そうだね、お前もいるしね」
やわらかな笑顔を見せた彼にぴったりと寄りそって、龍鳥は大人しくなった。
柢王が帰ってくる頃にはもっとここに馴染めているかもしれない。
そうしたら―――――――きっとあの人は驚くだろう。
嬉しそうに、笑いながら。
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