投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3
その日、めずらしく柢王とのケンカが長引いて、仲たがいしたまま城へ戻ってきたアシュレイ。
さんざん怒りまくった挙句、ベッドに横になる頃には自分の方が悪かったのだと頭は冷えていた―――――が、かっこ悪くてとても頭を下げる気にはなれない。
柢王と取っ組みあいのケンカなんて、ざらだ。技を出しあって互いにケガを負わせることだってしょっちゅう。でも何度くだらない事でケンカしようとも、後を引くことはほとんどなかったのに・・・。
けっきょくアシュレイは、次の日塾へ行っても柢王とは顔をあわせないように気をつけ、その次の日もまた次の日もと、とことん避けつづけた。
それに気づいたグラインダーズが、自分の部屋にアシュレイを呼びだす。
「アシュレイ、いつまでもつまらない意地をはるのはおよしなさい。自分の非を潔く認めるというのも大切なことだわ。そして認めたのなら相手にきちんと謝罪すべきよ」
そこまで言われたというのにこのままでいたら、姉に軽蔑されてしまうだろうし、何よりこの先ずっと柢王と話したり遊んだり出来なくなるのは嫌だったので、アシュレイは思い切って謝りに行くことにした。
(鼻で笑われるかもしれない・・・だから言っただろって、バカにされるかも・・・)
飛びながらアシュレイの顔色は冴えない。
柢王がもし、自分をあざ笑ったら・・・・またケンカになってしまいそうだ。ため息をこぼしながら東へ向かうアシュレイだった。
「おーっ、来たかアシュレイ、なんか久しぶりな気がするな」
剣の素振りをしていた柢王が空に浮いているアシュレイに気づいて手を振る。
「なんだよ、ずいぶん俺のこと避けてくれたなお前。こっち来て顔見せろよ」
「・・・・・」
くちびるを尖らせたまま下におりると柢王が汗を拭きながら使い女に冷たい飲物を所望する。
「どした、そんな顔して」
「柢王・・・・・俺・・・この間は・・・・・」
「うん」
「その・・・・俺が・・・・悪かったっ!これで文句ないだろっ、じゃあな!」
「こらこら、待てよ!」
脱兎の如く飛んで逃げようとしたアシュレイの足首をしっかとつかんだ柢王はそのまま華奢な体を地上に戻す。
「そう慌てンなって。ノドかわいてるだろ?ちょっと休んでいけよ」
「・・・・・ん」
恐れていたような意地悪もイヤミも言わず、出されたジュースを飲む自分を満足そうに見つめる柢王。その後も、アシュレイに剣の相手をさせたり塾の宿題の多さに文句を言ったりするだけで、話を蒸し返すようなことは一切しなかった。
本当に反省している相手にしつこく説教をするような男ではないのだ。物事を冷静に判断し短時間で見極めることが、このころの柢王はすでにできていた。
「そろそろ帰る。またな、柢王」
「おう、寄り道すんな?暗くなる前に城に戻れよ」
「ガキか」
「ガキそのものだろ」
ハハハと二人して笑って、晴れた気分のままアシュレイは柢王と別れた。
「・・・あのヤロ。暗くなる前に帰れだって、バカにしやがってサ」
飛びながら顔がゆるんでしまう。柢王と仲直りできることがこんなに嬉しいなんて思っていなかった。
―――――そういえば、すっかり忘れていたがもっと小さい頃・・・柢王とアシュレイが探検ごっこをした帰り、暗くなりはじめた空の下でアシュレイは無意識に柢王の手をにぎったことがあった。
べつに怖いからでもなんでもなく、ただ、姉のグラインダーズと暗い道を歩く時「手を繋ぎなさい」と強制されていた為そのクセがつい、出てしまっただけのこと。
ところが運悪くその現場を見かけた者がいて、翌日になると教室にアシュレイの悪口が書かれていたのだ。
半分に破られた画用紙が自分の席近くに落ちていたのを拾い、つなぎあわせると『柢王〜暗いよ〜こわいよ〜』アシュレイと思しき人物に書いてあるセリフ。
それを見て逆上したアシュレイは犯人をつきとめようと走り回った。
ところが見つけた出した犯人は柢王によって既に伸されていたのだ。
「俺がやりたかった!」
文句を言うと彼は「悪かったな」と笑いながらアシュレイの肩をたたいた。
「なぁ、アシュレイ。俺はあの時うれしかったんだ。俺には兄貴が二人いるけど、並んで手ぇつないでもらったことなんか一度もねぇよ。だからお前がああして手を握ってきてくれて、なんか弟ができたみたいでうれしかった」
この時、アシュレイは「弟だとぉ?」とか「別にお前と手をつなぎたくて握ったんじゃねぇ!」とか「お前、あの兄貴たちなんかと手ぇつなぎたかったのかっ!?」とか、頭の中でグルグル回ったのだが、それらは口から出てこなかった。「うれしかった」と連発する柢王だったが、そんな彼がちょっぴり寂しそうに見えて言えなかったのだ。
だから本当のことなんてどうでもいい。
自分と二人でいるときの柢王は、グラインダーズと似てる雰囲気がたまにあるから――――だからまた、ついまちがえて無意識のうちに手を握ってしまうかもしれない。
そして、それで柢王が喜ぶんなら別にいいや――――そう思った。
「・・・・・・」
「・・・・・どうしたの、アシュレイ――――泣いてるの?怖い夢みた?」
となりで半身起こして顔をぬぐっている恋人を心配そうにのぞきこむティア。
「・・・・・なんでもない」
「アシュレイ?」
今までずっと、自分は柢王にも守られてきた。
だから、彼が守りたくても守れなくなってしまったもの全てを・・・・・人界から離れたがらない桂花のことも、これからは自分が守りたい・・・・・。
「・・・・お前も俺が守る」
「え?」
「いいから寝ろ」
起こしてしまって心配かけて。この言い様はないだろうと自分でも思うが、アシュレイはそれ以上なにも言わずティアに背を向けて寝てしまった。
恋人が夢をみて泣いていたことは明らかだったが、ティアは詮索しない。今、自分を守ると言い切ったアシュレイの瞳には、強い意志が宿っていたから。
(私だって、君を守るよ)
寝息をたてはじめた恋人の髪をそっと撫でながら、ティアもふたたび眠りについた。
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