投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3
「わっ」
突然、後ろから腕をひかれ桂花はよろけた。
「柢王・・・いきなりは止めてくださいって、いつもいっているでしょう」
「冷たいこというなよ、早くおまえに会いたくて全力疾走してきたんだからさ」
二週間ぶりに下界から戻った恋人は、甘えモード全開で桂花を抱きしめてくる。
「まだ仕事が・・・」
「そんなの後、後っ」
「でも、あと少しで」
「少しってどれくらい」
「夕方までには」
「仕方ねーな」
柢王はもう一度ギュッと桂花を抱きしめると、やっとのこと腕をといた。
「じゃあ、その間に城に行ってくるとするか」
「蓋天城に?」
「ああ。 親父にコレ頼まれてたからさ」
柢王は下界から持ち帰った紙袋から菓子箱をひとつ取り出した。
「・・・ちんすこう??? なんです?」
「あっちの銘菓。前に土産にやったら気に入ったみてーでさ、勿論おまえにもあるんだぜ」
「―――ちんすこう・・・がですか?」
「いや、ウチのはこれ♪」
柢王はガサガサといくつかの菓子を取り出し、一番大きなのを桂花に渡した。
「『うなぎパイ』・・・この『夜のお菓子』ってネーミングは何ですか」
胡散臭げなキャッチコピーに桂花は眉を寄せる。
「いいだろ、それ♪ 一発で気に入っちまった」
柢王はケラケラ笑うと残りの菓子も桂花に渡す。
「そっちはティアにな。アシュレイからの差し入れ。アイツはあと数日あっちにいるみてぇだけど」
「こっちの箱は?」
「おっと、これは翔王、輝王にだ」
「彼等にも土産ですか?」
驚き桂花が顔をあげる。
「食うかどうかは知らねーけど」
「あなたって人は・・・」
菓子の中身を知って、桂花はため息をついた。
「クククッ、大丈夫。あいつらには分からねーって。これでも色々考えたんだぜ、ひよこの形の饅頭にするか、ひよこじゃアカラサマだから鳩の形のサブレにするか」
「で―――『吉備団子』ですか」
「そ♪ へーき、へーき、俺も吉備団子にまつわる話知ったの最近だしっ」
じゃあ行ってくるわと桂花の頬に唇を寄せると柢王は紙袋を手に窓から出て行った。
「アシュレイからっ!!」
ティアは眼を輝かせ、桂花が差し出す包みに飛びついた。
「こっ、これは!!」
包装紙を開けるなりティアが固まる。
「守天殿?」
いぶかしげに桂花はティアの持つ菓子箱をのぞきこんだ。
「『おたべ』? この菓子の商品名ですかね」
桂花の言葉にティアは強く頷いた。
「それは分かってる。分かってる、けどっ、でもっ」
「でも?」
「もしかしてっ・・・アシュレイが誘ってる?」
「ありません」
桂花はきっぱり答える。
「でもっ、数ある菓子からこれを選んだのってーーー」
「偶然です」
「下界に下りて練れてきたってこともーーー」
よほど欲求がたまっているのだろう・・・珍しく諦め悪くティアが食い下がる。
「ありませんね。柢王じゃあるまいし」
「――――――――――――――――」
撃沈。
有能な秘書に僅かな期待をもきっぱり絶たれ、ティアはガックリうな垂れる。
やれやれ〜桂花は肩をすくめた。
だが箱を手に立ちすくんでいるティアをこのままにしておくのも躊躇われ、椅子に座らせお茶をいれてやった。
「何はともあれ折角差し入れてくださったのですから一息入れましょう。吾はその間に資料をあつめてきますから。そうだ、これも宜しかったらどうぞ」
桂花はお茶と柢王土産の『うなぎパイ』テーブルに並べると執務室を後にした。
―――ガタガタッ―――
椅子がひっくり返る音を背にしたものの、桂花は構わず蔵書室へと足をむけた。
「よく食ったな」
戻った柢王は減った菓子箱を覗き嬉しげに笑った。
「吾はまだ食べてません。なんてったって『夜のお菓子』ですから。 たくさんあったんで守天殿とナセル室長におすそ分けしたんです」
「そっか♪」
何を期待しているのか、いつになく弾んでいる柢王を尻目に桂花はシラッと言い募る。
「そう、先ほどナセル室長に教えて頂いたんですが―――『夜のお菓子』って家族団らんでいただくお菓子って意味だそうですね」
「―――――へっ!!」
「ですから」
桂花はにっこり続ける。
「今夜はいつになく中睦ましく過ごしましょう―――もちろん冰玉も交えて、ね」
―――柢王が撃沈したのは、、、言うまでもない。
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