投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3
木枯らしに容赦なく頬をうたれて、ティアはマフラーを巻きなおす。
鉛を溶かしこんだような空が重苦しい。
(・・・・雪でも降ってきそうだ)
手袋を忘れた彼は、耐えられなくなってポケットに両手を入れた。
「転んだらキレイな顔を怪我して女子どもが大騒ぎだぜ」
背中から聞こえたイヤミに振り返ると、もう4日も口をきいてくれてなかったアシュレイが視線をそらしたままティアを追い抜いていく。
「アシュレイ」
彼に歩調を合わせると、すぐにそれを乱されてしまった。
「まだ怒ってるの?」
「あたりめーだ」
ツンと前を向いたまま赤い髪が更に足を早めた。
この幼なじみを意識しはじめたのはいつ頃からだったか・・・。
小学生の頃は手のつけられないやんちゃぶりで周りに敬遠されていた彼が、成長するにつれどんどんキレイになって・・・・夏休み前から何やらあやしい輩や視線が彼を取り巻いていて、ティアは気ばかりが急いていた。
「お前、俺に言うことがあるだろ」
「言うこと・・・?」
そういえば、きちんと想いを告げないままアシュレイを押し倒してしまったのだ。せめて告白してからにするべきだった。
結果から言ってしまえば、還り討ちにあい何もできなかったが・・・。
「約束したら許してやる」
「え?」
「二度とあんなふざけたことすんなよ?」
唇を尖らせて、すねたような顔をむけられた二秒後――――ティアはアシュレイの体を壁に押しやっていた。
「っ!」
背中を打ったアシュレイが文句を言おうとした途端、指が食いこむかと思うほど強く両腕をつかまれる。
「―――――――ふざけたこと?・・・・・私は時々ものすごく君が憎らしくなるよ・・・・」
普段のティアとはちがう低い声ときつい眼差し。本気で怒っている証拠だ。
アシュレイは目をみはったまま何も言えない。
「謝るよ、いきなり押し倒したりして卑怯だった。でもふざけてなんていない。私は・・・・・アシュレイ、君が―――・・・・」
風の音に消されてしまいそうなほどのささやきで伝えると、ティアはその冷えきった耳に唇を当てた。
優しく耳朶を舐められ、電気が走ったように体がしびれたアシュレイは、ひしと彼の腕にしがみつく。
ふるえる体をそっと離し自分のマフラーを巻いてやると、ティアは無言のままアシュレイを見つめてから、その場を去って行った。
『君が好きだ』
ささやかれた言葉が頭の中で反響して、アシュレイはいつまでも足をふみ出せずにいた・・・・・。
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