投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3
「忍っ、俺が悪かった、頼むっ、出てきてくれ〜〜〜っ」
くれ〜くれ〜くれ〜・・・倉庫に二葉の絶叫が響き渡る。
だが無常にも扉は堅く閉ざされたまま。
ガツン―、二葉は岩戸を蹴る。
「二葉ダメだよっ!! 電子ロックだもん。 壊したら余計やっかいだよ」
「―――わかってる」
桔梗の忠告に振り上げた拳をそのまま下ろした。
「中にいるんだろうな」
「あっ、疑っちゃう!? わざわざ一緒に足を運んでやってるっていうのに」
「悪いっ、俺が悪かった」
二葉の謝罪に機嫌を直した桔梗は、扉の出っ張りを指差す。
「ほら、この岩肌ね、誰かが入ると出っ張るようになってんだ。悠がね忍がここの鍵を持って出かけたって」
「にしても、何だよ、コレ」
二葉は前にそびえる大きな岩戸を見上げる。
古びた倉庫の中にこんな大岩が積み上げられてると誰が思うか。
それより、どうやって中に運び入れたのか。
地下鉄はどうやって地下に入れたの? と同じくらい不思議に思う。
「面白いでしょ!? 最近とったCMセットなんだ。 あんまり俺たちが絶賛したんで、倉庫の持主が壊すまで好きにしていいって」
「何のCM?」
「いま流行りの岩盤浴」
「がんばんよく・・・・ってアレか? 岩をひきつめた中で寝そべるサウナみたいな」
「う〜〜ん、厳密には違うけど、ま、その岩盤浴だよ」
「俺も詳しくは知らないけど、岩盤浴って火山岩だがの遠赤外効果で体内の悪いものを発汗させるってヤツだろ? だからって、こんな原始的なセットにしなくたって・・・」
「原始的っ!! ええーーっ!! 一目瞭然じゃん!! 分かりやすいじゃん!! CM見たら二葉も絶対納得するって」
「どんなCMだよ?」
「ふふーん、聞きた〜い?ダメダメ企業秘密だもん。でもっ二葉がどーしてもって言うなら教えてやっても〜〜〜」
「いらんっ」と突っぱねたいところだが、桔梗の機嫌を損ねるわけにもいかず二葉は渋々頷く。
オンエアー前に誰かに話したくて仕方なかったのだろう。
桔梗はバッと顔を輝かせると意気揚々と説明を始めた。
「えっとね、人生の荒波に揉まれ疲れきった青年がこの岩戸に閉じこもる。 そして数刻。 再び扉が開くとっ!! ジャジャジャジャーーン!! リフレッシュした美貌の青年(つまり俺ね)が颯爽と現れるってワ・ケ。 ねっ、ねっいいと思わない? 」
・・・思わない。
まるでカップラーメンじゃねーか。
危うく出かけた言葉を二葉は飲み込む。
だが悪評を敏感に嗅ぎ取った桔梗はキッと顔つきを変えた。
同時に話題も方向転換。行き先はもちろん二葉へ直球ど真ん中。
「忍ねぇ、閉店までローパーで待ってたんだってーー、二葉から誘ったんだってねーーー、かっわいそーーーー」
「わかってるって、ネチネチくり返すな。だからこーして謝ってんだろっ」
「ゴメンで済んだらケーサツはいらないっ」
微妙に怒りが摩り替わっている。
三日前、DVD鑑賞の約束を卓也にすっぽかされたことにだろうか?
「そりゃ、たまにはローパーで飲もうって言ったのも、日時を決めたのも俺だよ」
「そ、れでー」
「日を間違えたのも俺っ!!」
「フン」
勝者桔梗。
敗者の二葉はガックリ肩を落とした。
―――ドンドコドコドコドンドコドン―――
―――ドンドコドコドコドンドコドン―――
「なっ、なんだ、なんだ!!」
突然の騒音に二葉が飛び上がる。
「扉が開く効果音だよ」
勝手知ったる桔梗がツラツラと説明する。
「よかったね、出てくる気になって。けど忍責めたら俺が許さないよ」
責めるも何も、二葉はこの騒音にすっかり毒気を抜かれている。
扉の効果音!?
CMヒットはないなと二葉は再度確信した。
―――ギィギギギギッ―――
軋む音と共に岩戸がゆっくり開き始める。
二葉と桔梗は待ち構え!!
「しのぶーーー・・・・・・・・へっ、え、かずきぃぃぃぃっ!?」
扉から現れたのは二葉の兄、一樹・フレモントだった。
「あれ〜〜〜?なんで〜〜〜?」と桔梗。
「・・・・・・・・・・・・・」沈黙の二葉。
「これ、中々いいね」
そんな二人の前に一樹は颯爽と歩み寄る。
リフレッシュした美青年そのものだ。
「さすが一樹。俺の従兄弟だけあるね。。。現れ方もすっごく様になってたよ♪」
セットを誉められ上機嫌な桔梗は、瞬時チャンネルを一樹モードに切り替える。
打てば響くとはこういうことなのだろう。
桔梗はピョンピョンと一樹に跳ね寄った。
「で、一樹はどーして此処にいるの? 」
「昨日、忍にCMの話を聞いてね、天の岩戸のセットなんて面白いだろ?」
「ふうん。で、忍と来たの?」
「あれ、小沼。二葉も来たの?」
一樹が答える前に、当の忍が缶コーヒーを手にヒョッコリ現れた。
忍は手にしたコーヒーを一樹と桔梗に差し出す。
「俺はいらない。 それより二葉と和解してやってよ、深〜く反省しているみたいだからさ」
「和解? 反省?? 」
首を傾げる忍。
桔梗は大きく忍に頷くと、今度は一樹の腕に抱きつき「CMの再現してあげる♪」と岩戸内へと引っ張っていく。
何が何だか分からず二人を見送った忍は、説明を求めて二葉に向き直る。
すると今まで黙り込んでいた二葉がいきなり口火を切り始めた。
「俺が悪いっ、悪かった。悪いのはわかってる。ケド避けることねーじゃん、部屋に閉じこもってるかと思えば黙って出社してるしっ」
「ちょっ、ちょっと待って。部屋に閉じこもってるって・・・それは卓也さんの作る新カクテルが美味しくて、ついつい飲みすぎて帰った途端寝ちゃったんだよ。おかげで今朝の商談には寝坊しちゃうし、声かけようにも二葉シャワーだったろ? 」
「ケド連絡くらいよこしたって・・・」
「メール入れたよ」
「・・・あ――――っ」
慌てて取り出した二葉の携帯、電源はオフ。
電源を入れた途端、待ってましたと着信音がひっきりなしに流れ始める。
忍専用の着信音だ。
ズ―――――ン
頭を抱えた二葉はとうとうその場にしゃがみこんでしまった。
忍も黙ってそれにつきあう。
途中コーヒーのプルドップを引き渡してみたものの、二葉の顔は上がらない。
やっと二葉がそれを口にした頃、二人の足はすっかり痺れきっていた。
だけど、もう大丈夫。そう思い、忍は静かに口を開いた。
「二葉、昨日電車に乗っただろう? その時電源切ったんじゃない?」
「へっ・・・えっ、あーーーーーーーっ!!」
思い当たったのだろう、二葉が声をあげる。
そんな二葉を見て忍は微笑む。
『携帯電話が及ぼすペースメーカーへの影響』
それを知ってから二葉は優先席付近では必ず携帯の電源を切る。
多分、昨日もそうだったのだろう。
そんな二葉は誰よりもかっこよくて、誇らしい。だから忍の笑みが消えない。
だのに二葉はひたすら謝り続ける。「悪い、ホントごめん」と。
そんな二葉が愛しい。
だから、つい言葉がこぼれ落ちる。
「二葉、大好きだよ」
―――ドンドコドコドコドンドコドン―――
―――ドンドコドコドコドンドコドン ―――
再び響き始めた騒音に忍の言葉はかき消される。
「・・・・・え?」
「ん、、、何でもない。ほらっ、二人の女神のとうじょうだよ」
「女神?」
「岩戸に身を隠すのは日神(太陽神)アマテラスなんだ。小沼も一樹さんもピッタリだと思わない?」
「太陽ねぇ〜〜。しいて言えば夏のギラギラしたヤツだな」
普段通りの忍に安心し浮上した二葉は、憎まれ口を叩きつつ扉に足をむける。
その大きな背中を見ながら忍は思う。
それなら、二葉は冬の太陽だ・・・と。
どんなに寒くても、どんなに辛くても、絶えず温もりを与え続けてくれる。
なくてはならない存在。
―――ギィギギギギィ―――
「ヤッホー、忍ーっ」
岩戸から桔梗が飛び出してくる。
忍は笑って手を振る。
そして太陽達へと駆け寄った。
Powered by T-Note Ver.3.21 |