投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3
「柢王、最近冰玉の様子がおかしいと思いませんか」
食卓を片付けていた桂花が眉をひそめて尋ねるのに、柢王は、んー? と聞き返す。
「別に、飯もちゃんと食ってるし、最近でかくなってきたし、おかしいところは……」
思いあたらねぇぞ、と答えたものの、一家の主は留守がちで、冰玉のことは桂花に任せていることが多い。たたでさえあれこれ
気苦労かけている桂花に、ここで話も聞かずに、気のせいだよと流したら、いつか無人の家に帰ることになるかもしれない。
そんなの嫌だ、な柢王は、桂花の肩へ顎をつけると優しい声で、
「具体的にはどんなことが?」
尋ねながら、頬にすりすり。これは家庭円満のためのスキンシップというより単に趣味。が、心配事のある一家の稼ぎ頭は
反応すらよこさず、
「最近、よく池のほとりで水面を覗き込んでいるんですよ。吾が呼べば戻っては来ますけど、なにか悩み事でもあるようで。
それに、うちでだって──あ、ほら!」
桂花が指差すほうを見やると、台所にある大きな水がめのふちに青い小鳥の後姿。水面を眺め、時々、ふしぎそうに小首が
傾いでいるのを見れば、なるほどなにか悩んでいるかのようにも見える。
が、元気いっぱい愛情いっぱいごはんもいっぱい育てられている雛鳥にどんな悩みがあるかなど見当もつかない。尋ねることは
できても、その返事を言語に翻訳することのできない柢王は困惑顔で、
「あれじゃねぇの。あいつも自分の外見気にする年頃になったとか? あ、それとも早くでっかくなりてぇなぁとか思ってるとかさ」
思いついたことを言ってみるが、桂花は浮気なんかしてねぇよと言われた時のようなそっけなさで、そうでしょうかと信じない。
と、そんなふたりのやり取りなど気づかない龍鳥の雛は、その首を思案げに傾けたまま、パタパタ表に出て行ってしまった。
「……」
林の中の池のほとりでたたずむ青い小鳥。水面を覗き込んで、ふしぎそうにぴちゅぴちゅ何かをさえずっている。
そのさえずりを言語に翻訳するならば──
『ボクのパパは天界一の男前(パパ談)』
『そして僕のママは四国一の美人(パパ談)』
『そのふたりの一人っ子であるこのボクは……』
ぴっちゅー? と小首傾げて水面を見つめ、
『なぁんで見た感じ鳥なんだろぉ……?』
今日も鳥に見えるんだけどぉ、が、最後のぴちゅうだ。
(ボクが早く強く大きくなってパパとママに似たりっぱな龍鳥になれますように)
梁にとまった青い小鳥が夢のなか──
願いをかなえるビラビラ衣装の人に何度も小さな頭を下げる。そして、その下、寝台のなかではパパママが、
「…って、なんだよ、おまえが拒んだって冰玉の悩みが解決するわけじゃねぇだろっ。つか俺らが円満な方があいつだって気が
まぎれるつーか幸せになれるっつーかさぁ──」
「あんなに見るからに悩んでいるんですよ、なのにあなたはよくそんな気になれますね? とにかく冰玉の悩みが解決するまで
絶対にダメです!」
眠る小鳥を起こさないようひそめた声での攻防戦の真っ最中──
とにかくあれこれ勘違いある家庭ではあるが……。
これはとある幸せ家族の肖像だ──。
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