投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3
北領・暉蚩城。
ネフロニカの選挙事務所。
山凍 「なに!? あちらは天主塔の中に事務所を…。いや、わざわざ
すまぬ。おまえたちにも苦労をかける」
珀黄 「いいえ。私も江青も、誓って主君は終生山凍様おひとりと心に決めて
おります。ただ、このたびばかりは守天様のお力になりたいのです」
山凍 「ああ、わかっている。守天様を頼むぞ」
珀黄 「はっ…! では」
ネフィー「もう帰るんだ〜?」
珀黄 「はっ…、いやあの、その…」
ネフィー「相変わらず景気の悪い顔してるね、珀黄。私には挨拶なしかい」
珀黄 「こっ、こちらの守天様……お久しぶりというか……いや、あの…」
(さ、山凍様っ、こちらの守天様はなんとお呼びすれば…っ)
こそこそ珀黄が小声で山凍にお伺いをたてていると、
ネフィー「名前で呼んでいいよ。知らない仲じゃないんだしさ〜。ま、すぐに
また私がこの天界で唯一無二の守護主天になるけどね」
と言ったかと思えば、珀黄相手になにやら無駄にチラリズム。
山凍 「ネフィー様。…珀黄を出血多量で葬り去るおつもりですか」
ネフィー「ええ〜〜っ!? ……珀黄、おまえが軟弱にも鼻血なんか垂らすから、
私がいらぬ嫌疑をかけられてるじゃないか。責任とって、
奥の部屋でちょっと」
山凍 「ちょっと? なにするおつもりですか、珀黄に、なにさせるおつもりですかっ!?」
珀黄 「もも、申し訳ございません!! こ、これにてっ…………」
目配せで退出を促され、珀黄、鼻血にまみれて脱兎のごとく退去。
ネフィー「あーあ。つまんないの〜」
山凍 「仕事はいくらでもあります。それに告示後は息つく間もないですよ」
ネフィー「ケチなティアランディアは、告示前はお昼の数刻しか譲ってくれないしぃ」
山凍 「守天様には執務がおありです。たった数刻といえど、大変な調整を
なされているはず。それをご承知の上でおっしゃっておられるの
ですから、あなたは…」
ネフィー「ふふん。タチが悪いって?」
山凍 「とにかく、その数刻を有効的に利用して準備を…」
ネフィー「だ・か・ら、友好的に使おうって、さっきから言ってるのにおまえときたら…」
ネフィー様、ソファーに大胆悩ましポーズでふんぞりかえって山凍を手招き。
山凍 「そのお身体はいまの守天様のものですから…。滅多なことは
なりません。……それに、本気ではないのでしょう?」
ネフィー「あーあ! つまんないの!!」
(つまるとかつまんないとかではなく…。)
大きく息をひとつ吐き、山凍はネフロニカを見た。
(ネフィー様は、どうしてまた守天選などに立候補されたのか……)
(どうしてまた、自ら修羅の道へと行くおつもりなのか……)
(…いや。ふざけているようでも、やはりネフィー様は根っからの守護主天。
天界をそして人間を愛しておられるのだ)
山凍流ハッピー解釈では、ネフロニカこそ愛の権化、愛の伝道師。
「この方のためなら死ねる…!」と心新たに誓うのだった。(天界版「愛○誠」)
『オメデタイ奴ダナ。山凍ッテ』
場も空気も読まないデンゴン君だが、人の機微は読めるらしい。
『腹芸ノ ヒトツモ 覚エナイトナ〜』
アウ 「そういうところがまた、あの子の気に入るところなのかもな」
『ソレガ 恋?』
アウ 「………ああ、そろそろタイムリミットだ」
『しかと カ!? オイ』
勤勉(?)なのは結構だが、またアシュレイからガラの悪い言葉を習得したなデンゴン君…と思いながら、天主塔より遠見鏡で守天の身体を見守っていた(見張っていた)アウスレーゼ(with デンゴン君)は、その日の交代時間を告げるべく、遠見鏡を通して暉蚩城のネフロニカに「終了」のサインを送った。
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守天(ネフィー)が帰ったあとの暉蚩城。
山凍 「結局、できているものはポスターのみか…………」
告示まであと2日。
果たして、間に合うのだろうか………。
と、はじめての選挙に不安が隠せない、雛だった。
(というか、そのポスターに不安があるのかも)
アー 「北が新人についただとーっっ!?」
柢王 「投票日にどっちに入れようがかまやしねぇが、四天王が選挙事務所
までもってやるなんて、とち狂ったと言われても仕方ねぇな」
アー 「くっそー…っっ!!」
ティア「心配してくれるのはありがたいけど、山凍殿にもいろいろと理由が
あるんだよ」
アー 「でもあの山凍が、おまえを蹴って他の奴につくなんてっ…!」
桂花 「恋は盲目、とか聞きましたが」
アー 「…なにボケたこと言ってんだ、おまえんとこのエロ魔族は」
桂花を一瞥だにせずアシュレイが柢王に言ったかと思えば、
桂花 「あちらの方、噂ではとても美しい方と聞きました。山凍殿にも 遅い
春がきたのかもしれませんね。野生の小猿にもくるくらいですから」
臨戦態勢に入ったふたりをそれぞれの相方が全力で制御。
柢王 「まあまあ。落ち着けって。なっ? …んで、アシュレイ、桂花はな
江青から聞いたんだと。なんでも、新人候補の選挙事務所等に
ついては選管も了承済みだとかで」
アー 「江青…まさかあいつらまで向こうにつく気じゃ…っ」
柢王 「そりゃ、珀黄も江青ももともと北のもんだし、なんつったって
あいつら山凍ラブだかんなー。仕方ねんじゃね?」
アー 「…ーーーーーっっっ」
ティア「アシュレイ、大丈夫だから。珀黄も江青も、私の手伝いをして
くれるって言ってくれたよ」
アー 「おまえの選挙事務所はどこなんだっ、もしまだなら俺んとこで…っ」
柢王 「おまえんとこって、南の王子宮かぁ? 駄目駄目」
アー 「なんでだよっ、つか、おまえには関係ないっ」
桂花 「南、というか炎王は静観するおつもりでしょう。申し訳ありませんが、
あの方にとって、守天が誰かということはさほど問題ではないで
しょうから」
柢王 「だよな。たぶん、つか、うちもそうだ。もちろん西もな」
アー 「…出てけっ、てめーらふたりとも出てけっっ!!」
ティア「アシュレイ、待って、ね? 柢王も桂花も、悪気で言ってるんじゃ
ないんだ」
柢王 「そうそう…っと、てめっ、んなとこでそんなもん出すなっ振り回すなっっ!」
桂花 「バカはすぐに手が出る足が出る」
柢王 「おまえもやめろって…」
桂花 「フン!!」
トホホ顔な柢王を哀れに思ったのか、
『仕方ナイ。特別ニ てぃあらんでぃあ ノ 事務所ヲ ココ天主塔ニ 開クコトヲ許可』
ティア「デンゴン君…」
アー 「やっぱり頼りになるな、おまえはっ!」
柢王 「いやでも…それこそマズイんじゃ…」
桂花 「選管との癒着を疑われますよ」
アウ 「マズイ…確かにマズイ…」
柢王 「…ティア、誰だこの人」
江青と違い、突然の闖入者に驚くものはいない。
ティア「ああ…えーと…柢王と桂花は初めてだったね。こちらは選管の
アウスレーゼ様。ほら、額に選管マークが入ってる…」
桂花 「……なるほど」
柢王 「選管マーク……ね。了解」
なんとなく察しつつも、人形のデンゴン君と違い、生身の、自分達と
そう変わらないように見えるアウスレーゼを最上界の神だと紹介することこそ、
マズイのだろうということを、柢王も桂花もわかっていた。
アウ 「ふ…。そなたのまわりは物分かりがよいの。……ところで、そなたの
事務所だが。選管と同じ場所ということは確かにまずい。だが、
選挙の間、『守天』が天主塔に全く存在しないというのも困る。
なので、市中の者が出入りしにくい(というかほとんどできない)と
いう点で候補者にとっては不利だが、特例として天主塔の一室を
事務所に使うことを許可する」
『ソノホウガ楽シイシ。ナ? あうすれーぜ』
ティア「……………」
桂花 「そういえば、さきほど話していたとき、江青殿が急に頬染めて
言葉に詰まったので、どうしようかと思いました」
アー 「江青が!? やっぱりつらいんだな、山凍と敵味方んなって
戦うのが……」
なのにこっちについてくれるなんて…。
(なんていい奴なんだ!!)
と心でガッツポーズなアシュレイが江青を絶賛してる頃。
柢王 「なんの話だったんだ、桂花」
桂花 「暉蚩城が事務所になることと、自分達は現守天サイドにつくこと、
そして、執務室で選管の方にお会いしたことを話したとき、急に…」
アウ 「ほぉ…」
嬉し楽しそうなアウスレーゼに、これまた場も空気も読めて察しもよく
物分りもいいティアと柢王と桂花は、複雑な表情を見せていた。
『天界ッテ オモシロイカモ!』
空気も場も読まない、というか読む必要のないデンゴン君の発言に、水でもかけたら
壊れるかな…、と一瞬守護主天にあるまじき殺意が芽生えたティアだった。
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↑その直後。
アウ 「こ、こらっ。…す、すまぬの、守天殿。ははははは」
『慌テルあうすれーぜモ、カナリ つぼ』
アー 「あっ、そうかも! 滅多に見れねぇよなっ!(笑)」
と仲良く笑いあう(?)ふたり。
殺伐(?)とした選挙戦で、デンゴン君とアシュレイの真の友情が芽生えた瞬間だった。
告示前の天主塔・執務室。
ティア「新人って…」
『一応 ねふろにかノ記憶ハ 天界人カラ 抹消済ミトノ事ダッタノデ』
ティア「…それで、アウスレーゼ様は?」
『あしゅれい ト 囲碁。』
ティア「あなたは一緒しないんですか」
『ヒトリデ仕事 カワイソナノデ タマニハ てぃあらんでぃあ トモ 交流』
ティア「…それはどうも」
と、そこへ、江青が控えめなノックとともにやってきた。
ティア「…先代の選挙事務所が暉蚩城に?」
江青「申し訳ございませんっ、守天様!」
ティア「…………」
言葉を失うティアに、江青もなんと言っていいかわからない。
『恋 ハ 盲目。気ニスルナ』
ひぇっ…!! と声ならぬ声(?)をあげて、江青が執務室の端っこまで飛びすさった。
江青「しゅしゅしゅしゅ…」
『シュラシュシュシュ?』
ティア「江青、落ち着いて」
デンゴン君を目で制しながら、江青を見る。
江青「しゅっ…守天様っ…! そ、それはいったい…!?」
ティア「江青、『デンゴン君』だよ。ニュースで見てない?」
江青「は…? デンゴン君……? どぇぇぇぇぇぇぇ…!?
こっこのギンギラギンの珍妙なからくり人形がですか!?」
『失礼ナ奴ダナ、オイ。イッペン泣カセタロカ』
ティア「…もしかしてアシュレイの影響ですか、その言葉遣いは。
微妙にアレンジされてるみたいですが」
『我ノ美点ノヒトツ 応用力 ヲ 軽ク披露。』
ティア「…それはどうも」
脱力しつつも、ようやくデンゴン君に慣れてきたティアだった。
江青「守天様。それがその、最上界の神様なのですか?」
『我ハ 神ナリ』
アウ 「こら。…すまぬの守天殿。そちらの方も」
江青「い、い、いま、あなたはどこから…!?」
どこからともなく突然現れたアウスレーゼに、江青のデリケートな神経はまたもやぶち切れそうだ。
ティア「えーと、こちらは、今度の守天選の選挙管理委員会の方で、
アウスレーゼ様。ほら、額にデンゴン君と似た選管マークが
入ってる。とても人を驚かせるのがお好きな方で、いまも江青を
ビックリさせようとして、そーっと入ってきてたんだよ、
気がつかなかった?」
江青「え…。そうだったんですか。ちっとも気づきませんでした」
アウ 「場を和ませようと思うてな」
江青「それは…申し訳ございません。私はなんというか…空気を読むのが
苦手で。よく珀黄にも、あ、珀黄というのは私とともにこちらで
お勤めさせて頂いている従兄なのですが…あ、いや、こんな話、
どうでもいいですね、なにを言ってるんだろう私は…(赤面)」
アウ 「焦らずともよい。…今は少し時間がないが、またゆっくりと」
江青「は、はい。では守天様、失礼致します」
ティア「どうして、姿を消したり暗示をかけたり記憶を
操作したりなさらなかったのですか」
アウ 「いやなかなか可愛らしげだったのでな」
ティア「江青には妻も子もおります」
アウ 「家庭に波風を立てる気はない。我もたまにはプラトニックしたいのだ」
ティア(プラトニック……?)
デンゴン君のノリに慣れてきたかとほんのちょっと安心しかけたのも束の間、アウスレーゼのプラトニック発言に、一瞬気が遠くなりかけたティアだった。
『天主塔ニュースの時間です。
はじめに、選挙管理委員会からのお知らせです。
統一地方選挙の前半戦、天空界新四天王選挙が告示され、
定数1ずつに対しそれぞれ現職1人が立候補しました。
これにより全ての選挙区において、現職4人が無投票で当選しました。』
アー 「つまんねぇの」
アウ 「いわゆるモトサヤというやつか? 突然の変化は好まれぬようだな」
アー 「うちの城、やる気満々で結構力入れて準備してたのにな〜。
父上なんか、すんごい自信あったみたいで、戦わずしての勝利に
納得いかなくて唸ってた」
アウ 「ほう」
アー 「『元気な南領! 築こう、皆で!』とか、変なポスターまで作ってさ」
アウ 「変なのか? 民主主義ぽいキャッチフレーズでよいではないか」
アー 「力いっぱい変なんだって。ほら」
どこに持ってたのか、アシュレイ手からぽいっと一枚、かと思いきや、
数枚の折りたたんだポスターがアウスレーゼの前に広げられた。
アウ 「…うぅ……む」
アー 「なっ?」
アー 「ダーッと候補者が出て、派手にお立ち台で選挙演説とか
かましたかったみたいでさ。父上、発声練習までしてたんだぜ。
柢王の話じゃ、あいつんとこの親父、白手袋にマントまで新調して、
鏡の前で軽く風でなびかせてポーズとってたって」
アウ 「それは…残念だったな」
『ばか バッカリ』
アー 「だよなーっっ!(笑)」
どうやらデンゴン君とアシュレイは気があうようだ。
ところかわって、天主塔・執務室。
ティア「守護主天の選挙の選管はどうしましょうか。
四天王のときは、デンゴン君が委員長で私が選管を
兼ねましたが…」
アウ 「悩むことはない。そなたの代わりは我が勤めよう」
ティア「アウスレーゼ様が?」
アウ 「いまこの天界で最も適任と思うが?」
『あうすれーぜ ガ 適任 ニ 一票』
ティア「・・・・・・・」
だが…。
そういわれてみれば確かに…。
守天選挙の選管。
四天王にも八紫仙にも、ましてや父上(閻魔大王)にも、おいそれと任せられるものではない。
ティア「…では、お願い致します」
『任セロ』
ティア「・・・・・・・」
アウ 「ま、任せてくれ、守天殿」
じと目のティアと困ったようなアウスレーゼを横に、デンゴン君は胸をはってそりくりかえっていた。
ティア「でも、守天に立候補なんているんでしょうか」
アウ 「いると言えばいる…のだが」
ティア「えっ? いるんですか? もしかして四天王家の誰かとか?
…ていうか、いつ届出があったんですか?」
アウ 「いやまあ、デンゴンくんのほうに直接…な」
デンゴン君は、たいていアウスレーゼと共に天主塔にいる。
ティア「…ということは、天主塔内の誰か、ですか?」
アウ 「う、うむ。まあな。そのことで守天殿に相談がある」
―――― 相談中 ――――
ティア「ぜっ……………たい、いやです!」
アウ 「まあまあ、そういわず」
ティア「どうしてそうなるんですかっ!」
アウ 「四天王選挙のとき、選挙権は元服後の15歳以上の各領民に
限ると決め、デンゴン君に伝え実施したが、その際、被選挙権に
ついての議論も取り決めも行わなかったであろう? なので、
守天選挙もそれに準じると…………」
ティア「準じると?」
アウ 「デンゴン君が」
『我ハ 絶対ナリ』
ティア (こ、このっ…!!)
アウ 「は、ははははは。…お茶目で、すまぬ」
ティアの震える握り拳に、思わずアウスレーゼはデンゴン君をフォロー。(?)
ティア「…で?」
アウ 「そ、それで、守天立候補者資格の制限がなし、という不測の
事態になってしまった、と」
ティア「……非常識な」
アウ 「す、すまぬ」
ティア「…いえ。違います。アウスレーゼ様の責任ではありません。
資格については私もその場にいたのですから。非常識なのは、」
そう、非常識なのは――――――。
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数日前の真夜中・蒼の間。
ネフィー「だってさー。暇なんだよ毎日毎日。末っ子ときたら、朝から晩まで
執務室で仕事してるしさぁ」
アウ 「当然のことだと思うが」
ネフィー「ええーーーっ!? 当然!? …枯れてんじゃないのアウスレーゼ様」
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『守天殿ガ 寝コケテイタ間ニ
ねふろにか・ふぇい・ぎ・えめろーど 立候補。届出ヲ受理。
同ジ新守天候補者同士、協力シテ 時間分配シ 仲良ク選挙運動ニ 励ムベシ』
アウ 「デンゴン君、いや選挙管理委員長の言うように、
機会は全ての候補者に置いて平等でなければならないのだ」
ティア「・・・・・・・・・っっ」
アウ 「守天殿…!」
ティア「わかりました。不本意ですが、了解しました。
……1日の半分をお譲りすればいいんですね。
その代わり、アウスレーゼ様、」
アウ 「な、なんだ」
ティア「先代から、いっときも目を離さず、そばを離れず、暴挙を許さず、
きっちり監視をお願い致します」
アウ 「も、もちろんだ」
『天主塔ニュースの時間です。
はじめに、選挙管理委員会からのお知らせです。
統一地方選挙の後半戦、天空界守護主天選挙が告示され、
定数1に対し現職1人と新人1人が立候補しました。
現職、ティアランディア・フェイ・ギ・エメロード。
新人、ネフロニカ・フェイ・ギ・エメロード。
投票は7日後です。
ご近所お誘い合わせの上、清き一票を御願い致します。』
『突然デスガ。
天空界ハ、民主主義ニ ナリマシタ。』
ティア「…なんですか、それは」
アウスレーゼの手のひらに立つ、身長(?)50センチほどの銀色の人形。
それが、カクカク口元を動かして、そう宣言した。
アウ 「ああ、紹介が遅れたな。こちらは『デンゴン君』。
三界主天様人形だ。額に御印が刻まれていよう?
守天殿、および天空界に、三界主天様よりの直々のメッセージを
携えてきた」
ティア「三界主天様からのメッセージ…?」
ここは天界、天主塔・執務室。
アウスレーゼのまじめな答と、『エッヘン』と反り返るデンゴン君に、
一瞬めまいを感じつつ、ティアはもうひとつの問いを口にした。
ティア「…それで、民主主義、とは?」
『天界人ノ自由ヤ平等ヲ尊重シ 選挙デモッテ ソノ代表ヲ選出シ
天界ヲ治メル コトデス』
ティア「…ご説明ありがとうございます。」
デンゴン君への対応に、戸惑いながらもティアは礼を述べた。
アウ 「つまり、世襲制の四天王のレベル低下、および守天殿の器の
リサイクルがそろそろ減価償却(?)の頃合だとかで、この機会に
一度、選挙で天空界を治めてみるのも………」
ティア「・・・みるのも?」
アウ 「一興かと」
ティア「天界はオモチャではありません!!」
アウ 「や、待て!守天殿。我が言ったのではない。三界主天様が、
そう言ったのだ」
ティア「ということは、決定事項なのですね」
…ンのオヤジぃぃぃ!と、アシュレイなら龍鳥の羽ペンを30本ほど
いっぺんにへし折ってしまいそうな発案だ。
アウ 「…許せ。あの方も超長生きで退屈しておられるのだ」
ティア「………」
アウ 「そ、それに、遊び心というのは必要だぞ、うん」
ティア「遊ばれる身にもなってほしいですね一度」
だからやめといたほうがいいって言ったのにーーーー。
冷や汗タラタラのアウスレーゼに、ティアはひとつ息をつく。
ティア「仕方ありませんね」
アウ 「守天殿!」
ティア「ではまずは四天王から、ということで」
そんなわけで、統一地方選挙は始まった。
現・四天王たちはそれぞれに憤慨したり動揺したりしていたようだが、
なにしろ最上界からのお達しということで、すみやかに沙汰に従い、早々に
選挙事務所を開き、活動を開始した。
そして、またしてもところは天主塔・執務室。
桂花 「結局、今までの四天王の方々は皆様立候補されたようですね」
ティア「ああ。でもねぇ、対立候補が出ないんだよねー」
桂花 「それは…」
そうでしょう、という言葉を桂花は飲み込む。
桂花 「ひとつ気にかかることがあるのですが」
ティア「なんだい」
桂花 「四天王の方々や、王家の方々の『力』は、どうなるんですか?
もし、対立候補の方が出て、その方が当選でもされれば、
王族に受け継がれてきた『力』というものはいったい…」
ティア「それ、ね…」
ティアは苦虫をつぶしたような顔で、デンゴン君の言葉をそのまま伝える。
『王族ノ大キスギル「力」ハ、当選者ノ新王ニすらいどノ予定。ソレニ伴イ、元・王族ノ「力」ハ 消滅』
桂花 「消滅…ですか?」
ティア「そうらしいよ」
桂花 「スライドとか、消滅、って…。そんなに簡単にできるものなんですか」
ティア「簡単らしいよ」
ムカつくことにね、とティアは心の中でこぼす。
実際、四天王にはその旨伝えたし、そのことが四天王たちの出馬への意欲にもなったようだ。
ティア「でも…」
桂花 「はい?」
ティア「デンゴン君のメッセージを各城の満円鏡に送信したんだけど。
…それも出馬に関係あるのかも」
桂花 「なんでも、暉蚩城では重鎮のお歴々が号泣されたそうですね」
ティア「は、ははははは」
(山凍殿、申し訳ありません…!)
笑って誤魔化しつつも、遠見鏡で暉蚩城のジイサンたちに泣いて責められる山凍に、
ティアは心で頭を下げていた。
『四天王家ニ ツイテ。
ヒトツ。イマダ伴侶ヲ得ズ 王家ノ 存続ガ危ブマレル。
ヒトツ。嫡子ガ イワユル虚弱デ 後々 王トシテノ責務ニ全ウデキルカ 危ブマレル。
ヒトツ。寝所ニ年若イ女性ヲ多ク侍ラセ 色事ニ没頭シ 王トシテノ品格ガ 危ブマレル。
ヒトツ。腹ニいちもつアリソウデ ナンダカ胡散臭イ。』
もちろん、メッセージ配信後、各城近辺では軽い天変地異があったとか。
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そのデンゴン君。
連日、アウスレーゼとアシュレイの囲碁を楽しく観戦中。
アー 「…ぅわっ! 待て、待て待てって! あーあ…」
アウ 「まだまだだな」
負けてこぼすアシュレイと反対に、デンゴン君と同じく、アウスレーゼは楽しげだ。
アー 「そいえば、おまえらいつまでここにいるんだ?」
『選挙ノ 結果ヲ持ッテ 最上界ヘ帰リマス。』
アー 「ふーん…」
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桂花 「選挙は、四天王だけですか? 八紫仙は?」
ティア「ないよ」
桂花 「では…」
ティア「次はね、私」
桂花 「は?」
ティア「守天の選挙なんだ」
理解不能のため思考が一時とまった桂花(とても珍しい)に、ティアは大きなため息をついてみせた。
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