投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3
絆なんて信じてはいけない、と李々は何度も言っていた。
求めてもいけない、と。
その意味を桂花はよく判っていなかった。だから無邪気に言えたのだと思う。
俺達は魔族同士だから大丈夫だよね――。
そうねと笑って、ずっと一緒にいましょうね、と続けた声の空ろさも、桂花は気づかないままだった。
李々はある日突然消えた。
――二度と帰って来なかった。
絆なんて信じてはいけない。その声は今も桂花の頭の中でこだまする。
「ん? どした、桂花」
閨で睦みあえば、気絶するように眠りに落ちることも珍しくない。だが今夜の桂花は、力ない手で柢王の手を探っていた。
「桂花?」
指が見つけ出した手のひらはあたたかい。これは、李々が信じてはいけないと言ったものだ。
信じてはいけない。
求めてはいけない――。
きつく閉ざされた眦から涙が筋となって流れ落ちる。
「桂花、桂花? どうしたんだよ」
李々が教えてくれたことで、桂花のためにならないことは一つだってなかった。
ならば――。
「おい、桂花」
首と敷布の間に逞しい腕が差し込まれ、僅かにのけぞった顔を、柢王が覗きこんできた。
「どうした? どっか痛いのか?」
吾はこのひとを信じてはいけない。
泣きながら自分を見つめる魔族に何を思ったのか、柢王は一方の腕で白い頭を抱え込んだ。
「大丈夫だ。俺がいる。ずっと側にいるから」
求めては、いけない。
李々の言葉を信じるなら――。
天界人の体温の高い体。武将の鍛えられた体つき。剣を使う者の、指の付け根にあるたこ。気遣う眼差し、優しい声。
己の全てで柢王は桂花を包みこんでいる。
桂花はきつく眼をつぶった。
(李々・・・ごめん)
もう自分は李々を選べない。
それが彼女への裏切りであっても。
「ごめん・・・」
「桂花。大丈夫だ。おまえが謝ることなんて何もない。おまえは何も悪くないから」
ささやいて涙をぬぐう唇。
「愛してるぜ、桂花。おまえだけだ」
な、と額を合わせて笑ってみせる男の顔。
その首に桂花は腕を回した。
「抱きしめててください。ずっと」
すぐに応えてくれる腕の力強さに桂花は吐息をつく。
(李々・・・。吾を許してほしい・・・)
瞼の裏に広がる赤い髪に、桂花はきつく眼を閉じた。
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